『ニワトリとともに―自然養鶏家 笹村出』
【出版社】農山漁村文化協会
【定価】 本体2090円+税
【初版年月】 2014年12月1日
【ISBN】 4540142410
内容
エサは、草と地域から集めたおからや米ぬか、くずそばなどでつくった発酵飼料。地域内自給、地域内循環をめざしながら「生命力のある卵」を育ててきた笹村さんの自然養鶏の思いとくらしを伝えます。
【あとがき】
はじめて笹村さんのご自宅にうかがったとき、家の中をゆうゆうとで歩き回るネコたちに目を奪われた。それも何匹もいる。まるで家の「主」といったのような風格が満ちている。この家はさぞかし動物たちにとって居心地の良い場所にちがいないと思った。奥さんのかよこさんは、私たちと話をするとき、いつもネコたちを膝の上に大事そうにかかえている。笹村さんは、東北の震災で行き場を失った大型犬、ニワトリなども引き取って育てている。仕事として育てるニワトリだけでなく、動物全般が好きらしい。
そんなご夫婦の暮らしは、すっかり「どうぶつ時間」だ。ニワトリにエサを与える時間にあわせて朝4時に起きる。夜は8時に寝てしまう。電気をなるべく使いたくないという気持ちもあるからだ。どうぶつ時間はもちろん健康にも良い。うらやましいが、これはなかなかできない。
もちろんいちばん好きなのは、もちろんニワトリだ。「ほら、こっちくるんだよ」などと、ニワトリたちにかけ声をかけるとき、その目はまるで、わが子を見つめるようなやさしそうな目になっている。
そんな笹村さんが、ニワトリのエサをつくるときは、ちょっとキビシイ顔つきになる。エサによってニワトリの活力や卵の質がまったく変わってしまうからだ。
恥ずかしながら、笹村さんの卵をいただくまで、卵というのは濃い黄色のものが栄養価が高いと思い込んでいた。しかし自然のエサを食べたニワトリの卵は、うすいレモン色をしているのだ。これには驚いた。笹村さんの卵をいただいたら、ほんのりと草の香りがした。
ニワトリのエサには、自分が暮らす地域から出る「残り物」を使っている。お豆腐屋さんから出たおからや、蕎麦工場から出たくずそばの実だ。本来なら捨てられてしまう物が、ニワトリたちのエサの材料として生きる。それを食べて育ったニワトリの糞は、とても良い肥料になるため、自分や周囲の農家さんの畑や田んぼの肥やしに使われる。
「笹村さんの自然養鶏の特徴は『地域との循環』だ」と壇上さんは言う。彼は笹村さんの自然養鶏のやり方に感銘を受け、若くして養鶏業を志した。近代的な養鶏はニワトリのにおいや鳴き声で周辺に迷惑をかけることもある。また飼料は海外からの輸入にたよっている。地域とのつながりがほとんどない。一方で笹村さんの自然養鶏には地域の人たちとのつながりや温かい人情があるという。
それを可能にしているのは、笹村さんのお人柄だと思う。動物好きに加えて人好きだ。農の会の畑仕事の時などは、他のメンバーとのおしゃべりに夢中になり、なかなか作業がはかどらない。黙々と作業する仲間たちは、それを温かく見守る。その光景はほほえましくもある。
壇上さんは、笹村さんとはまた違ったタイプの自然養鶏業者さんだ。私がたどたどしい質問をしても、こちらの意図をくみとり、いつもこれ以上ない的確な答えを返してくれる、頭脳派タイプ。笹村さんの自然養鶏を受けつぎ、その技術をさらに発展させて、地域の循環の輪を広げてくれるにちがいない。そしていつの日か、壇上さんの卵が自分の家の近所のスーパーに並ぶ日がくればいいなあと思う。できれば私にも手が届くような値段で。
『ニワトリとともに―自然養鶏家 笹村出』
【出版社】農山漁村文化協会
【定価】 本体2090円+税
【初版年月】 2014年12月1日
【ISBN】 4540142410