バングラデシュの村の小学校*結婚生活とテキストの味わい。
サウジアラビア、エジプト、インドネシアの学校に続き、イスラム圏の学校シリーズ。今回はバングラデシュです。コミラという町近くの小さな村の小学校を訪れました。
この学校を訪問したきっかけが面白くて。私が村でホームステイしているという噂を聞きつけ、家に子どもたちが迎えにきたのです!
どこにつれて行かれるのやら、わからないままついていくと、そこは学校‥。
私の姿を見つけた子供達がどどど‥と教室からなだれ出てきました。バングラデシュの子どもたちのパワーはすごい!
生徒たちがコーフンして教室から飛び出てしまったため、授業どころではなくなってしまいました。代わりに女性の先生と、たっぷりお話ししました。
いとこと結婚
教員室へ招かれ、英語がとても上手な女性のP先生とお話。まずはこの学校についてです。
村には小学校が2つあり、この学校は生徒数500人。先生は6人いらっしゃるそうです。
バングラデシュでは中学から男女別です。今はほとんどの女子が高校を卒業するとのこと。
Pさんから「どこからきたの?」「名前は?」「バングラデシュに来てどのくらい?」「結婚してるの?」などお決まりの質問を受けた後、私も同じ質問をさせていただきます。
Pさんは27歳。結婚したのは20歳で、まだ大学生の時です。「ずいぶん早いですね」というと、「ここでは普通ですよ」とのこと。
ーなぜそんなに早く結婚したのですか?
「とても良い話だったからです。家柄とか学歴とか。私にとって理想的な相手だったから」。
ご主人はいとこ。結婚は父親同士が決めたそうです。
婚約から結婚まで2週間。その間に何度か会ったものの、一度も話をしなかったそう。(パキスタンの場合と同じです)
「話をするのは大切じゃないと思ったわ。私の両親が彼のことを良い人だと言っていたから」とPさん。これもパキスタンで聞いたようなセリフです。こういうのは南アジアの文化かもしれません。
バングラデシュでは今は7割が見合い結婚、3割が恋愛結婚だそうです。
ー恋愛は、どうやって知り合うんですか?
「学校とか道端とか(!←ナンパ?)。あとはフェイスブックとかですね」と楽しそうに笑うPさん。
ーここでの結婚ではマフルはあるんですか?
「最低で50万タカくらい。離婚した場合に払うお金もちゃんと契約書に書いておきますよ。婚約の時は彼女にゴールドのアクセサリーを贈ります」。
別居婚
‥こんな人生談義をしている間も、子供達は、教員室の窓から鈴なりになって私たちを眺めています。それを物差し(!)で追い払うPさん。といっても強い感じではなく、あくまでおだやかにです。
結婚を機に大学をやめてしまう女子もたくさんいますが、彼女は周囲のサポートがあって仕事を続けていられるそう。
Pさんには息子さんが一人。
「子どもは大学を卒業してからの方がよかったわ。でも避妊に失敗してしまって。これもアッラーからの贈り物だから嬉しいわ」。
子どもがいても就職には不利にはならないそう。これは少し意外でした。「スチュワーデスとか家を留守にする一部の職業は別ですけど」。
今は実家住まいで、ご主人とは別居中。母親に子供の面倒みてもらうためです。やはり子育てと仕事の両立は大変なのだそう。
ご主人は木曜日の夜に家に来て、土曜日の朝早く帰ります。別居婚はご主人の両親からの提案。Pさんが仕事をするのにとても意欲的なのだそうです。すばらしい。
子どもは1人で十分
「子どもは1人で十分だわ。2人いたら働くのが大変だもの。夫は2人欲しいって言ってるけど」。
村の人の話では、教育を受けた女性は子供は1人か2人が普通だそう。そうでない場合、たくさん産む傾向があるとか。こういうのは世界共通でしょう。
ー(Pさんには男の子がいるけど)もし女の子だったら、男の子も欲しいんじゃないですか?
「女の子でも男の子でも、一人でいいわ」
ーでもバングラデシュの中では、そういう人はめずらしいのでは?
「そんなことないわ。みんな1人よ」と、同僚を指さします。
隣の席の30代の女性は男の子1人、その隣の40歳の女性は男の子と女の子それぞれ1人ずつ。
「お茶飲みますか?」と言い、窓からのぞいている生徒の1人に「お茶買ってきなさい」と自分のマグカップを手渡します。
いただいたのは、とってもとっても甘いミルクティーでした。
生活費は夫
先生の給料は男女同額です。それでもイスラムの教えにのっとって、バングラデシュでは家計をまかなうのはすべて夫です。
「家には一円も入れていませんよ」とPさん。服もご主人のお金で買うそう。
そこで「仕事は何ですか?」と私に逆質問。家で仕事しているというと、ハウスワイフと思ったのか、「すべてをご主人に頼っているって屈辱的じゃない?」とドキリとするような質問をします。
私も負けじと「でも夫にすべて家計をまかなってもらうのも、同じようなものでしょ?」。
するとPさん、「私達には稼ぎがあるわ。お金はもしものためにちゃんと貯金している。それでいずれ投資したり、家を買ったりするかもしれない」
「自分の稼ぎがあり、貯金があり、いざとなったら自分で生きて行けるという土台があるわ」と誇らしそうに言います。
ーでもこの国では皆が皆、働いて貯金している女性ばかりじゃないでしょ?
「そうです」。
ーそういう女性達はやっぱり屈辱的に感じてるのかしら?
「彼女達には、そう感じるだけのパワーがないの」。
私がこれまで20カ国くらい旅したというと、(そんなに!)と絶句。
「私は一生この国から出ることはないでしょう。海外旅行はすごくお金かかかるから。そのお金があったら、貯金しておくの」。
「この国では誰も助けてくれない。病気しても保険はない。日本だったら、ちゃんとしてるでしょ。ここでは何かあっても政府は助けてくれないんです」
話は変わって「日本の家では何を食べていますか?」とPさん。
私が「Rice(米)」と何度言っても通じません。発音がまずかったようで。
英語では「r」は「l」が違います。私はriceの「r」を「l」で発音していたので、彼女には通じなかったのです。
「日本では大学で英語で授業しないのですか?」。しないというと「やっぱりね。あなたの英語を聞いていると、それがわかるわ」と、くったくない口調で、ケラケラと笑います。反論の余地なしです。
「バングラの大学ではすべて英語で授業をするの。だから大学を出た人はすべてパーフェクトに英語が話せるのよ。この国では英語ができないと出世できないから」
ただ日本語で授業を受けられる幸福というのも日本にはあります。
ともかくこんな片田舎に、彼女のように英語が流暢で、しっかりした考えを持っている女性がいることに、一種驚きを感じました。
味わい深いテキスト
クラスを見ることはできませんでしたが、英語のテキストを見せてもらいました。9~10クラスのものです。
その中に、とても印象的な文章がありました。(この文章を読んで、後の質問に答えるというもので)。バングラデシュの人生観がとてもよく出ている話でした。
「昔ある村に一人の男が家族と暮らしていました。家では妻と口論続きで、男はつかれてしまい、一人で生きるためにジャングルで暮らし始めました。
そこで彼は小さな小屋を建てます。「これでオレはハッピーだ」とほくそ笑みました。
しかしそのうち、毛布を小さなネズミが噛んで穴を開けてしまいました。
そこでネズミを退治するためにネコを飼うことにしました。
ネコはミルクが必要なので、牛を飼うことになりました。
牛には草と干し草が食べ物で必要なので、カウボーイを連れてきました。
カウボーイは食事が必要なので、妻をめとりました。そして子供が生まれました。
男は再びファミリーに囲まれて暮らすことになりました」。
これが、そのストーリー。最後にこうしめくくっていました。
「このように誰も一人では暮らしていけない。天使でないかぎり。人は食べ物とシェルター、仲間が必要で、助け合うことが大切だから」
この話、バングラデシュ人には当たり前と思いますが、マイペースが好きな私には、けっこうじ〜んと来ました。