2024-08-02

シベルート島メンタワイ族と暮らした1週間②*空腹が恋しい。

siberut-mentawai-tamra シベルート島メンタワイ族

朝起きて、川へ顔を洗いに行くアマン・サリ。寝る時は長髪を下ろしている。

インドネシア・シベルート島のメンタワイ族が暮らすジャングルに来て2日目。彼らの住居「ウマ」で初めての朝を迎えました。ウマとはメンタワイ族が暮らす伝統的な高床式住居です。
(1日目:シベルート島メンタワイ族と暮らした1週間①*インスタント麺の後悔)。

ウマでの寝心地は意外に悪くありませんでした。横になってしばらくは、人が歩くたびに床がゆれ、犬が突然走り出す音などでなかなか寝付けませんでしたが、気づいたら爆睡。私は他人のいびきがけっこう気になる方ですが、ジャングルの中では、日がくれるとたちまち虫たちの大合唱となり、人間のいびきなどかき消されてしまいます。

夜中にトイレに行くこともありませんでした。トイレは外。真っ暗な中で靴を履き、歩いていかなければなりません。夜中に一度目は覚めましたが、がまんしたのです。

siberut-mentawai-tamra シベルート島メンタワイ族

火を炊いてタバコの火をつけるアマン・マジャ。左の蚊帳が私の寝室。

5時半。まだ暗い中、奥の炉で妻たちがサゴ(メンタワイ族の主食)を焼いています。アマン・マジャの15歳の息子が起きて、お茶を入れている。ずいぶん早いなと思ったら、これから40分かけて村の学校へ行くそう。

6時。ようやく外が明るくなってきて、けたたましくニワトリが鳴き、虫たちの大合唱に変わって、さまざまな鳥たちの鳴き声が響き渡ります。この頃になると、小さな子供たちも起きてきて、それぞれ歯ブラシを手に川へ向かいます。アマン・サリの長女サリが、使ったコップやお皿をおけに集め、川に持って行って洗います。

アマン・サリも起きてきて、髪をほどいた姿で川へ顔を洗いに行く(一番上の写真)。長く伸ばした髪を手で束ねたり、ほどいたり。その姿がなかなかなまめかしくて、後ろ姿をじっと見つめてしまいました。

朝8時。ゆでたバナナ

 siberut-mentawai-banana シベルート島メンタワイ族の食事

アマン・サリの長男が、バナナの皮をむいて食べる用意をする。

8時にゆでたバナナをいただきました。ここではバナナは生で食べることはほとんどなく、ゆでるか、すりおろしてまるめてココナツミルクで煮込んだりして食べます。生で食べてもあまり美味しくはないのです。

siberut-mentawai-banana シベルート島メンタワイ族の食事バナナ

ゆでたバナナ。右にあるのは牛肉を蒸した時に出たスープで、バナナにこれをつけて食べると美味しいそう。試してみたが、う〜ん微妙‥。

このバナナが朝食かな?と思ったら、しばらくして蒸した牛肉とご飯が出てきました。これが本来の朝食?しまった、バナナを食べすぎてしまった‥。

その後も2、3日間、食事のたびに牛肉が出ました。肉はイスラムの犠牲祭イード・アル=アドハーの日にモスクから配られたものだそう。実は家族はムスリム!だったのです(もちろん戸籍上だけ)。余った肉は竹筒に入れて保存し、食べるたびに炉で温めなおします。

siberut-mentawai-tamra シベルート島メンタワイ族

朝ごはん?の後は、家族たちは玄関先に腰掛けて雑談。この時間がとても長いです。

ジャングルで木を切る

siberut-mentawai-tamra シベルート島メンタワイ族

タバコを吸いながらチェーンソーで木を切るアマン・サリ。チェーンソーはここに滞在していた外国人がプレゼントしたものだそう。

しばしの雑談後、家族そろってジャングルの中へ。木を切り出します。2日前にどしゃぶりの雨が降ったため、家の周囲の地面のぬかるみがひどくなってしまったので、歩きやすいよう地面に丸太を渡すのです。静かなジャングルにチェーンソーの音が響き渡る。

ジャングルならどこでも木を切って良いと思っていましたが、それぞれの土地の所有者が決まっているとのこと。ここはアマン・サリのおじいさんが1,000,000㎢の土地を、ブタ一頭とニワトリ何匹かで手に入れたものだそうです。

siberut-mentawai シベルート島メンタワイ族

アマン・サリの妻バイ・サリは子供を片手に木を引っ張る。バランス感覚が素晴らしい。

材木は川の流れに乗せて運びます。お前も手伝えと言われて私も引っ張ってみましたが、なるほど。手で担いで運ぶよりずっと楽です。細く切った葉っぱを木にくるっとひっかけ、それを持って引っ張ります。

こういうのが可能なのは、木を切った場所がウマより川の上流だったから。上流から下流へと川の流れに乗せて運べるのです。これが反対だったら大変でしょう。この辺りもちゃんと計算しているのかも。

ちなみに家族そろって作業するのを見たのは、滞在中これが最後。ジャングルでは男女の役割分担が明確で、薪や竹を取りに行くのは女性の仕事、狩りは男性と決まっているのです。タバコを吸うのは男女とも同じでしたが。

12時。バナナとタロとナシゴレン。

siberut-mentawai-food シベルート島メンタワイ族の食事

ゆでたタロとバナナ、中央が牛肉。

戻ると、バナナとタロを蒸したものをいただきました。これが昼食?と思ったら、またしても30分ほどしてナシゴレン(インドネシア式チャーハン)が。

私たちの感覚では、朝食の昼食、夕食の時間は決まっていますが、ここではそういうものがあるような、ないような‥。サゴが出来あがたたらサゴを食べ、バナナがゆであがればバナナを食べる。それでも一応、朝食、昼食、夕食のようなものはあるみたいで、朝は7時半くらい、昼は正午すぎ、夕食は7~8時頃に、みんなでそろっての食事となります。

siberut-mentawai-nasigoreng シベルート島メンタワイ族の食事

ナシゴレンを料理する姉サラ。庭でとれたタピオカの葉を炒め、炊きたてのご飯を入れる。味付けはチリ(唐辛子)、塩、インドネシア製チキンストックのような調味料。

ここに来るまで、ジャングル奥地の民は、最低限の食べ物だけで質素に暮らしていると勝手にイメージしていました。たしかに食事内容はシンプルですが、食べる量はけっこう多いし、食べる回数も多い。いつも体を動かしているせいもあるのでしょう。ジャングルに分け入り、竹や木を切り倒し、ウマまでかついでくるのは、かなりの重労働です。

私はただ彼らについていき、パチパチ写真を撮るだけなので、たいした運動量ではない。なのに食意地が張っているので出されたらつい食べてしまう。おかげでここでは常に満腹状態。「空腹感ってどんな感じだったっけ?」となつかしさすら感じるほどでした。

犬が数匹ウロウロ

siberut-mentawai-tamra シベルート島メンタワイ族

私たちが食べているのを見て、犬たちがすかさず寄ってくる。勝手に食べ物に手を出すことはない。犬には名前がついているが、名前で呼ぶことはない。

誰かが何かを食べ始めると、すかさずそこへ犬たちが寄ってきます。ウマに来て驚いたことの1つが、ウマの中を犬が何匹もうろうろしていることでした。これまでの人生で2回野良犬にかまれ、狂犬病の注射を打ったことのある私は、犬が怖くてしかたがない。こんなジャングルの奥地で、犬に噛まれたらどうしよう‥?島にはたいした病院はありません。船に乗ってパダンに行かなければならない。それも船が出るのは週3回だけ。(犬よ、どうせ噛むなら船がある日にしておくれ‥)、などと内心祈ったものです。

しかしよく躾けられているのか、犬たちはとてもおとなしく、滞在中一度も吠えたことがありませんでした。ふだんは床の上でだらしなく寝転んでいて、飼い主がどこかに行く気配を察知すると、素早くついてきます。かといって出歩くのが好きなわけでもなく、自分だけで出かけることはない。あくまで飼い主と一緒が好きなよう。

いつもダラけている犬が本領を発揮するのは狩の時。鼻がきくので、動物の匂いがわかります。野生のシカやサル、ブタ‥。犬を飼っているのも、狩のため。しかし間違ってアマン・サリの手をかんだことがありそうで、「すごく大きな傷口だったけど、薬草ですぐに手当したから、3日くらいでよくなったよ」とアマン・サリ。

サゴ*メンタワイ族の主食

siberut-mentawai-tamra シベルート島メンタワイ族の食事サゴ

ふるいで細かくしたサゴ粉を竹筒に入れる。

ウマでは朝と夕の2回、主食であるサゴを料理します。サゴは、サゴヤシの茎からつくる小麦粉。サゴを料理するのは、主に長男・次男の奥さんバイ・サリとバイ・マジャの役目です。

サゴの料理法には2つあり、竹筒に入れて蒸し焼きにしたものと、サゴの葉で包み、火であぶるもの。(詳しくは→シベルート島メンタワイ族の食事*ジャングルの恵み)

前者はもっちりしていて、ゴムのような食感。後者は外がカリカリとしていて、やや硬め。どちらも正直、あまり美味しいものではありません。

大好物*サゴカブトムシ幼虫

siberut-mentawai-tamra シベルート島メンタワイ族

タムラというサゴカブトムシの幼虫。炭火で焼いたものは意外に美味。

バイ・マジャのサゴ作りを眺めていると、アマン・サリの長女サリが、「あるもの」を持ってやってきました。「タムラ」と呼ぶサゴカブトムシの幼虫です。メンタワイ族の人たちの大好物。

バイ・マジャとサリ、サリの妹も加わり、できたてのサゴとともに、タムラをむしゃむしゃ‥。この時は気持ち悪く感じて、ただ見ているだけでしたが、その後、勇気を出して食べてみたら、とても美味しかった!

この後、3人とも、しっかりご飯と牛肉の夕食?を食べたのは、言うまでもありません。

→3日目:シベルート島メンタワイ族と暮らした1週間③*宗教とジャングルの結婚

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