『アガーフィアの森』*文明から隔絶された森の住人を描く衝撃的ノンフィクション
野生動物だけが生息するシベリアの山中深く。ここで40年近く文明との接触を断ち、自給自足していた家族が発見されました。
この家族を10年以上取材し続けた新聞記者と家族との交流を記した「アガーフィアの森」。
もともとロシアの新聞に連載されたもので、記事なるやいなやセンセーションを巻き起こしたそうです。
アガーフィアは一家の末娘で、最後まで生き残った女性です。
アガーフィアの森あらすじ
資源探査エンジニアたちが探索中、偶然この一家を見つけました。
ルイコフ一家。厳格な信徒で、半宗教的なソビエト政権の迫害から逃れるため、人里離れた森の奥深くに逃げた人々の末裔でした。
電気もラジオも知らない。
第二次世界対戦が起こったことも知らず、子供4人のうち2人は、自分たち以外の人間を見たことがなかったといいます。
本の魅力1:原始時代と物質文明の交流
家族にとって、他の人間が現れたことは「悲しむべきこと」と最初は受け取られました。
始めて人間を見たアガーフィアにとって「恐怖」でした。
警戒心を抱きながらも、最初は父親と息子だけでエンジニアのキャンプを訪れ、やがて家族全員でやってくるようになる。
一家は、少しずつ心を開いていきます。
記事を見た人々から、たくさんの贈り物が殺到しました。
その中には紙幣があったそうです。
が、父親は「俗世のものじゃ。われわれには罪だ」と受け取らない。
そして記事を見た人々から送られてきたものに対し、
「こう物が豊かでは、とても一度きりの人生では使い切れませんわい」。
一方でテレビを「罪だ」と言っていた家族たち。
しかしその魅惑には逆らいがたくもありました。
エンジニアのキャンプを訪れるとテレビの前に釘付けになる様など、人間臭さも描かれています。
本の魅力2:森の中の自給自足
本には森の中での自給自足の暮らしも詳しく書かれています。
火打石で火をおこし、松明を使う。
食べるものはヒマラヤ杉の実など森の恵み、森を切り開いて作った畑でとれるじゃがいも、カブ、大根などです。
夏は素足、冬は白樺の樹皮で作った靴をはく。
衣類を作るには、まず麻を植えるところから始まります。
刈り取って干し、川の水に浸して揉んでやわらかくする。
それを糸車で紡ぎ、糸にする。それを機織りにかける。
織りあがった生地で、靴下も手袋もスカートも、すべての衣類を作る。
膨大な時間がかかります。
風邪の時はイラクサやキイチゴを食べ、暖かくして寝る。
ケガは唾液や頭皮の樹脂で手当てする。
生き抜くものすべてを森から得る。
人間の生きる力の奥深さを痛感させられます。
本の魅力3:人間の生きる支え
やがて他の家族が亡くなり、アガーフィアは一人残されました。
町に住む親類が一緒に暮らそうと誘うが頑なに拒みます。
「真のキリスト教徒は、俗世を離れた庵でこそ救済される」と信じているからです。
しかし彼女が森にい続けるのは、信仰ばかりではないと著者は語ります。
たしかに信仰は第一の理由であるかもしれないが、人間とは環境の産物であるということも、忘れてはならないだろう。
アガーフィアは、生まれてから三十四年間、森しか知らなかった。
深い針葉樹の森も、彼女にとっては決して敵対するような恐ろしい相手ではない。
それどころか全てが、身近で親しく、愛着のあるものなのだ。
どんな環境にあっても、信じるものがあり、自然の恵みに囲まれていることが、人間に生きる力をあたえる。
人間の底知れない可能性と秘められた力を知ることができる本です。
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