定命とは？＊インシャー・アッラーで生きるのが楽に

「天命」とは？

「天命」とはイスラムの基本的な教義である六信五行の１つで、「全ての運命は世界が誕生する前から神によって定められている」ことを信じることです。

イスラムの根本的な教義は「唯一絶対の存在である神アッラーを信じて帰依せよ」であり、人間の運命、この世のことは全て神が決めることになっている。それを信じるのが「定命」です。

『アッラーがわたしたちに定められる（運命）の外には、何もわたしたちにふりかからない。』（9:51)

自分の今ある境遇も神からいただいたものとして尊重し、感謝するということです。

インシャー・アッラー：神が望むなら

この世のことは全て神が決める。そのため未来のことを言及する時は、必ず「アッラーがお望みなら」と付け加えなることになっています。アラビア語で「インシャー・アッラー」です。

『何事でも、「わたしは明日それをするのです」と断言してはならない。「アッラーが御好みになられるなら。」と付け加えずには。』（18:23/24)

アラブの国でタクシーに乗り、目的地を告げると、運転手からは必ず「インシャー・アッラー」と返ってきます。「神が望めば〜へ着くだろう」と聞くと、日本人ならなんとなく頼りなく思うものです。

しかし実際、突発的な事故が起きたり、車が故障したりして目的地に着けないことは起こりえます。

何か約束しても、思わぬ病気で約束が守れなくなるようなことは実際によくあること。人間の意思は決して「絶対」ではない。

ムスリムから見れば、約束にしても、それがすべて「自分」の力で実施されると思い込むことこそ「傲慢」なのです。

人間の力の及ばないものが世の中には存在します。そういった人智を超えた存在に対して謙虚になるということ。それがインシャー・アッラーの真意です。

人の努力は無駄？

未来は全て神が決める。では人間の自由意志はどうなるのでしょう？努力するのは無駄？殺人をした人は、全て神のせい？

そうではなく、「最善の努力はするが、それでも人間の力ではどうにもならないことがある」ということです。

『人間はその努力したもの以外、何も得ることはできない。その努力の成果は、やがて認められるであろう。』（53:39~40）

『アッラーは人々が自ら変えぬ限り、彼ら（の運命）を変え給わぬ。』（13:11)

神は人間に他にはない知性、意思、力を与えて創造されました（→＊イスラムは人間性善説）。だからその力によって物事の善悪を判断し、自らの意思で行動を決定し、その行動に対して責任を負う義務が人間にはあります。

つまり人生の大筋は神の手で定められている。しかし神から与えられた才能をどのように使うかは自分次第であり、人生を善いものにしていく自由は残されているということです。

自分で運命を変えられる？

それでも「人生の神が大筋を決める」と聞くと不満が残るものです。私たちは、努力次第で何でも実現できると思いがち。「人間には無限の可能性がある」と言う人もいます。

しかし私たちが20世紀の終わりに、日本人として、それぞれの家庭に生まれ合わせたことも自分の意志ではありません。親も選ぶこともできません。

老いることも、やがて死ぬことも、人間の力ではどうしようもできません。人間ができることなど、宇宙や自然界に比べたら微々たるものです。

明日絶対に仕事にいこうとしても、地震がおこるかもしれないし、事故にあうかもしれない。病気になるかもしれない。

何をするにも、その時代、その日の天候など様々なものに左右されます。100%、人が自分の人生を創り得ると考えたら、それはとんでもない思い上がり。

努力や向上心でなしうることもたくさんあるが、できないこともたくさんある。むしろその方が多いかもしれない。

だから何かするにしても最善の努力はするが、自分の力が及ばない範囲は神の意志を尊重し、結果には深く悩まない。これが楽に生きるコツです。そんな楽観主義こそ、真面目な日本人には必要ではないでしょうか。

「人事を尽くして天命を待つ」と昔の日本人は言いました。

できなかったらそれは神様が望まなかったからだと、神様に責任を半分押し付ける。これがイスラム流幸せに生きる方法です。

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