イスラム女性は一人旅できるのか？

イスラム女性の一人旅は、日本ほどメジャーではありません。これは宗教的・社会習慣上の理由があります。

女性が一人旅できない（しない）のは、果たして「抑圧」なのでしょうか？

イスラム女性の一人旅を禁じる規定

ハディースでは、女性はマフラム（夫や父親など）同伴で旅をするよう命じています。

「女性はマフラムなしに旅行してはならない。そしてマフラムの同伴なしには、（マフラムではない）男性の所に赴いてはならない。」（アル＝ブハーリーとムスリムのハディース）

このため、メッカ巡礼なども、女性１人は推奨されていません。

なぜイスラム女性の一人旅を禁じたのか？

ではなぜ女性の一人旅を禁じたのか？これは女性の安全のためです。

コーランの時代、旅といえばメッカ巡礼です。飛行機や電車などはもちろんなく、何日も歩き続ける必要がありました。ラクダに乗れるのは富裕層だけ。荷物はすべて自分で担がなければならない。女性は途中で月経になる可能性もあり、そんな時、重い荷物を持って歩き続けるのは非常に重荷です。

宿の予約もできない。電話もネットもない時代です。行く先に宿はあるのか？どんな宿なのか？女性１人でははなはだ不安です。道中、追い剥ぎがいるかもしれません。そういった状況下では、女性の旅に「家族男性の同伴」を義務付けるのは、極めて自然なことです。旅をするなと言っているわけではなく、「旅するなら男性家族と一緒に行け」ということです。

現代のイスラム女性一人旅

では現代に生きるムスリム女性は、いかなる場合も一人旅できないのか？これについては学者間でも意見の分かれるところで、「道中の安全が保障されていればOK」という意見もあります。

一人旅を禁じたハディースが、女性の安全を確保するのが目的であり、また通信や交通網が過去よりはるかに発達した現代においては、「道中の安全が保障されていればOK」という解釈が妥当だろうと個人的には思います。

実際、今は日本でもイスラム圏でもムスリマたちは１人で旅しています。ただ家族（夫など）の同意は得ています。これはなにもイスラム女性に限った話ではないでしょう。

旅は一人より家族で

ビジネスでない「娯楽」としての旅行は、イスラム圏では、女性だけでなく男性も一人旅は一般的ではありません。楽しみは家族一緒で、という価値観・習慣があるからです。

「（夫を家において）一人で旅すると、楽しみが半分になる」とは、あるパキスタン女性の言葉。

「どうして一人旅しないの？」とあるイラン女性に聞いたら、彼女は「誰が荷物持つのよ？」。彼女たちにとって、「荷物は男性が持つもの」という認識。

世界中の誰もが「自由」を至上価値と思っているわけではありませんそれより親しい家族とともに暮らし、生きることの方に価値を見出す人もいる、ということです。

【参考図書】

★【写真集】「イスラーム ヴェールの向こう」

20年間の取材によるイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートあり。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。

★「イスラム流幸せな生き方」
中学生でもわかるイスラム入門書。世界でなぜイスラム教徒が増え続けているか？がわかります。