メッカ巡礼*ハッジ・ウムラとは?
イスラムの巡礼
イスラムの「巡礼」は、聖地マッカ(メッカ)の聖モスクと、そこにあるカーバ神殿を中心に行われるもので、次の2つがあります。(スンニ派・シーア派派共通)
ハッジ(大巡礼)義務の巡礼(六信五行の1つ)
ウムラ(小巡礼)任意の巡礼
ハッジとウムラの違い
①義務か任意か
ハッジはイスラム教徒の義務である「五行」の1つです。(*:六信五行とは?)。ウムラは義務ではありません。
「誰でもここまで旅して来る能力があるかぎり、この聖殿に巡礼することは、人間としてアッラーに対する(神聖な)義務であるぞ」(3:97)
ハッジは義務ではあるものの、義務が課されるのは体力や財力が許す人だけです。
まず体力。コーランが下された時代、巡礼は今以上に大変だったからです。徒歩かラクダで行くしかありません。
そして財力。自分に十分な財力があるだけでは不十分で、留守中に家族がちゃんと暮らしていける収入があることが必要です。借金をしていないことも条件となります。
お金はあっても病気などで行けない人は、別の人の旅費を負担することで巡礼したとみなされます。
またハッジのためにお金を貯めたが、それをお金に困っている人にあげてしまった場合も、ハッジをする意図を認めてハッジを果たしたとみなされます。
イスラムはとても柔軟な宗教なのです。(*:イスラムの戒律は厳しい?その教えは柔軟で合理的)
②時期の違い
ハッジの時期は決まっています。イスラム暦の第12月(巡礼月/ ズー・アルヒッジャ月)の7日から10日。この時期以外に行う巡礼は「ウムラ」です。(ウムラはいつでも可)
ハッジの時期は世界中から200万人以上のイスラム教徒が集まり、一緒に同じ儀礼を行います。
ハッジは団体行動が基本。参加者は各国の旅行会社が募集するツアーに申し込みます。この会社がサウジの旅行会社と連携してハッジを進めます。
ハッジの時期はラマダン同様、イスラム暦で決まるため、毎年11日くらいずつ前倒しになります。
③必要な儀礼の違い
ウムラに必要な儀礼は、カーバ神殿周辺で行う「タワーフ」と「サーイ」のみ。ハッジはこれに加えて複数の儀礼があり、場所を移動して行うため、数日かかります。
<ハッジとウムラ共通の儀礼>
「タワーフ」:カーバ神殿の周りを7回左回りに回る
「サーイ」 :聖モスクの中にあるサファーとマルワの丘の間を7回行き来する
両方とも、カーバ神殿を建設した預言者イブラヒームにちなんだものです。
ウムラの手順
ウムラの手順は、こちらで詳しく紹介しています↓
ハッジの服装
男性はすべて「イフラーム」という白い布を体に巻きます。(この布を着た状態をイフラームと言うこともあります。)
これは2枚の縫い目のない白い布で、1枚は腰から下に巻きスカートのように巻き、もう1枚は左肩にかけます。右肩は剥き出しのままです。
これは「神の前では人種など関係なく全ての人が平等」を表すためです。(→平等主義・ 聖職者がいない)
ハッジでは宝石、香水、装飾品は着用禁止です。
女性の巡礼の決まり
・一人で巡礼できる?
女性は男性親族と一緒に巡礼することが望ましいとされていますが、サウジアラビア政府は1人での巡礼も許可しています。ただ1人で参加している女性はほとんどいません。
・儀礼は男女一緒
モスクでは男女別に礼拝しますが、儀礼は同じ場所で行います。
・服装の決まりは?=顔を覆ってはいけない
男性はイフラームを身につけますが、女性は決まりはありません。肌や髪を隠していればOKです。顔は出すのが条件です。ブルカやニカブは認められません。香水や香料の入った石鹸を使ってはならないとされています。
・生理中は?
生理中、カーバ神殿の周りを回るタワーフの儀礼はできません。生理が終わった後で行うことができ、それによって儀礼を完了したことになります。
ハッジは人生の一大イベント
ハッジは義務であるとともに、ハッジに参加することは、イスラム教徒にとっての人生で最大の夢です。「人生で一度はメッカに行きたい」と誰もが願っています。行った人は「また行きたい」と思うもの。近年は所得が増えたこともあり、何度も行く人もいます。
希望者が多いため、サウジアラビア政府は各国の定員を設けています。そのため何年待ちといったケースも。特に巡礼熱が高いのはインドネシアです。インドネシア人が「行ってみたい海外」の1位がサウジアラビアだそう。
インドネシアで旅行会社を営む日本女性に聞いたところ、以前は現地ツアーを扱う旅行会社もたくさんあったものの、今は巡礼ツアーの方が儲かるため、ほとんどの会社がそちらへシフトしてしまったとのことです。
ハッジを遂げた人は尊敬の対象
ハッジを遂げた人は「ハッジ(女性はハッジャ)」と呼ばれ、非常に尊敬されます。(ウムラを終えただけでは「ハッジ」とは呼ばれません。)
ハッジに行くことはイスラム教徒の一生の夢でもあるのです。
「ずっと以前にサハラ砂漠のオアシスで、ある家族と知り合った。その家には、息子たちが出し合った旅費で念願のメッカ巡礼を果たし、ハッジの照合で村民から敬われている長老がいた。長老を誇らしげに見守る家族と接しながら、人生の意味という点で見るなら、この人たちはなんと豊かな世界に生きていることかと感じ入ったものであった。」
(「メッカ」)
「メッカ」
世界的写真家・野町和嘉氏がサウジアラビアの依頼で取材したメッカ、メディナを紹介する新書。
ハッジも5回にわたり取材し、その様子を本書で詳しく紹介しています。
同内容で、写真集「メッカ巡礼」(集英社)も出版されているが、この新書には写真集に使われた写真が多数含まれている。オールカラー版。
犠牲祭「イード・アル=アドハー」
ハッジ終了後、巡礼月の10日から13日にかけて「イード ・アル=アドハー(犠牲祭)」が行われます。巡礼者は羊やラクダなどの家畜を神に捧げる儀式を行います。
メッカだけでなく、世界中で同じ日に動物を屠る儀式が行われ、その肉は貧者に施されます。
★『イスラム流幸せな生き方』
中学生でもわかるようにやさしく書いたイスラム入門書です。世界でなぜイスラム教徒が増え続けているかがわかります。これ1冊でイスラムのイメージが変わります。
コメントを残す