イスラムの男女平等と女性の地位*コーランにおける女性
「イスラムは男尊女卑の宗教」と聞きますが、果たしてそうでしょうか?女性の地位は男性より低い?コーランでは女性をどのように扱っているのか?わかりやすくご紹介します。
コーランの男女平等
コーランでは「男女は平等」が基本理念です。
「男も女もわけへだてはしない。もともと(男女は)お互い同士」(3:195)
「男も自分の稼ぎから分け前をいただき、女も自分の稼ぎから分け前をいただく」(4:32)
男女は平等だが違うもの
平等だが違うもの。これがイスラムの男女観です。そのためコーランの規定にもさまざまな男女差が生じます。
なぜなら生物学的に男女が違うからです。女性には生理・出産があるが、男性にはない。身長や体重なども違う。イスラムの男女平等とは、こうした違いの上に立つ平等であって、「何もかも同じ」ではありません。
「クルアーンの「精神」は「男尊女卑」を認めていたというよりも、むしろ、男女の性的役割を明確にし、立場の弱かった女性の地位を改善する方向に向かっていたようである。
(「クルアーン神の言葉を誰が聞くのか」)
「男女が全く同じ」はムリがある
「違いを認めるのは本当の意味の平等ではない」という意見もあるでしょう。本当にそうでしょうか?
オリンピック競技は男女別々に行われます。男性の世界記録と女性のそれも分けられている。もし男女を分けないことが本当の平等だとしたら、両者は一緒に競技することになりますが、そうはならない。肉体的な条件が違うから、一緒に競うことはフェアでないからです。
男女を全く同じにするとしたら、生理中も男性と肩を並べて夜遅くまで働いたり、妊娠・出産中も休まず働くことになります。しかしこれは女性にとって辛い。何もかも同じにすることは(特に女性に)無理があるのです。
このように性差は厳然たる事実。イスラムではその上に立って、男女に別々の権利・義務を与えます。
女性にだけ免除されること
イスラムでは男女の違いを念頭に置いているため、コーランの規定にも男女差がある。男性に課された義務で、女性が免除されている事があります。
①男性は家族の生活費を稼ぐ「義務」があるが、女性にはない。
女性のお金はすべて好きなように使える。
②男性は毎週金曜の合同礼拝に参加する義務があるが、女性はない。
③女性は生理中、ラマダン月の断食と礼拝の義務を免除される。
男性は一日も礼拝を休めず、金曜日は必ずモスクに行かねばならず、家族を扶養する義務があります。
生活費は夫の負担
イスラムでは生活費は男性の負担とされ、また離婚した場合に女性に払うお金もあらかじめ決めておきます。
「アッラーはもともと男と(女)の間には優劣をおつけになったのだし、また(生活に必要な)金は男が出すのだから、この点で男の方が女の上に立つべきもの。」(4:34)
これは女性が働くことを禁じているわけではなく、働いても収入を家に入れる義務は基本的にはないということです。ただ実際には多くの女性が働き、家計に貢献しています。「上に立つ」が女性差別と思われそうですが、これはお金を出す点でのみ男性が上だということで、男女に上下があるという意味ではありません。
『イスラムの法では離婚する場合、男性の側は女性に生活の補償を与えることを義務づけているし、また女性の側からも離婚の申し立てをすることができる。これも当時の世界では他に類を見ない女性尊重である。イスラム教団が短期間にして、あれだけの急成長を遂げた背景には、こうした平等思想があったと見る学者は少なくない。アッラーの前には富貴の差も、男女の差もないととく教えが、当時の人々意にとってどれだけ衝撃的で、威力的であったかは想像にかたくない。』(『日本人のためのイスラム言論』)
(*イスラムの夫婦の役割分担*「家計は夫の負担」は女性差別?)
男女の遺産相続の違い
遺産相続分は、女子は男子の「2分の1」(4:11)です。これは上記のとおり男性が家族を養うため。父親が亡くなった場合、息子が働いて姉妹や母親を養う義務があります。
女性は働いても、収入はすべて自分のもの。相続分が少なくても、結果的に得をするようになっているそうです。
男女の服装ルールの違い
服装については、女性が身体を隠す部分は男性より多くなっています。男性が隠すのは、通常へそからひざまで。女性は顔面と手をのぞく部分です。これは先に書いたように男女の体の構造が違うからです。
(*イスラムの男女の服装ルール:女性だけが髪を隠すのは女性差別?)
女性の証言は男性
「男が2人、証人として立ち会うこと。男2人でないときは、男1人に女2人。女のどちらか1人がもし間違ったりしたら、もう1人が注意してやれ」。(2:282)
これについては、「気性が荒い遊牧民の犯罪は、強盗、殺人など女性の正視に耐えぬものが多く、姦通罪のような場合には、感情豊かな女性の証人は、二人いた方が証言の効力を強めたのではないだろうか」という学者の意見があります。
「取引書類や契約書や訴訟などの事柄に関係する証言に特定されたもの」といった意見もあります。コーランが下された時代、ほとんどの女性は商取引などに従事していなかったからです。いずれにしても、女性の地位を著しく低めることにはならないでしょう。
全て同じは良いことか?
このようにコーランでは「男女は平等だが違うもの」という理念に立つため、男女に間でさまざまな規定の違いがあります。イスラムには、違いを無視して何もかも同じに扱うという発想はありません。
本来の「平等」とは、そういうものではないでしょうか。何もかも同じは、逆に不平等です。日本の累進課税などを考えてみましょう。所得が多い人も少ない人も一律に同じ額の税金だとしたら?収入が少ない人にとって非常に酷です。生理や出産のある女性が男性と同様の長時間勤務をしなければならないとしたら?
1200年ほど前の仏教の教えに「人間は1人1人違うから、フラットな平等は本当に正しいこととは言えない。それより1人1人の個性を大事にすべき」というものがあります。
男女で違えば、個人個人も違う。その違いの上に立つ平等こそが、本当の意味で人にやさしい平等と言えるのではないでしょうか。
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