イスラムの結婚における男性の経済的負担は大*マフル、持ち家、離婚時の慰謝料
イスラムの結婚は総じて男性側の金銭的負担が大きくなっています。具体的には次のとおりです。
①結婚前に男性が家を用意する。
②男性が女性にマフル(婚資)を払う。
③結婚時に離婚時の慰謝料を決める。
④生活費は男性の負担。
①男性が家を用意する
多くのイスラム圏では、結婚時に男性が「家」を用意します。賃貸ではなく持ち家が理想とされます。日本ならローンを組んで何年もかけて買うものを、結婚時に用意する必要があるのです。これはイスラムの決まりというより、アラブ諸国の慣習です。
家具は男女双方で分担するケースが多いのですが、ベッドやテーブルなど大型家具はたいてい男性側の負担。ヨルダンでは、家具もすべて男性が用意します。
②男性から女性にマフルを贈る
イスラムの結婚では、男性から女性に「マフル」(婚資金)を払う決まりがあります。マフルは日本では「結納金」と訳されることが多いのですが、実際には花嫁への贈り物。結婚後は彼女の個人財産になります。
マフルの額は国によって違い、場合によっては月収の数十倍になる場合も。エジプトなどでは、結婚資金を貯めるために湾岸諸国などに出稼ぎに行く男性がたくさんいます。
③離婚時の慰謝料を決める
イスラムの結婚では、離婚時の慰謝料をあらかじめ決めておきます。先のマフルには「前払い」と「後払い」があり、後払いがこれにあたります。これは(夫から)離婚した場合に妻に払うお金で、離婚後の女性の生活補償になります。
「後払い」は「前払い」より高額なのが普通。お金がない男性は離婚も簡単にできないシステムなのです。
『イスラムの法では離婚する場合、男性の側は女性に生活の補償を与えることを義務づけているし、また女性の側からも離婚の申し立てをすることができる。これも当時の世界では他に類を見ない女性尊重である。イスラム教団が短期間にして、あれだけの急成長を遂げた背景には、こうした平等思想があったと見る学者は少なくない。アッラーの前には富貴の差も、男女の差もないととく教えが、当時の人々意にとってどれだけ衝撃的で、威力的であったかは想像にかたくない。』(『日本人のためのイスラム言論』)
「前払い」「後払い」のマフルの額は、結婚契約の際に、新郎新婦の親同士が決めます。
本人同士はたいてい「結婚だ!」と心が浮かれているので冷静な話し合いができないからです。
結婚前に離婚時のことを決めるなんて‥
「結婚する前から離婚のことを決めておくなんて縁起でもない」と日本人なら思いがちです。しかし男女の愛ほどアテにならないのも、また事実。大事なことだからこそ、うやむやにしないのです。現に日本では離婚して慰謝料や子供の養育費を受け取れない女性は少なくないようです。
「離婚後の養育費の未払い率は8割を超える。ほとんどの母子世帯は元夫から養育費をもらえていない過酷な現実がある。(相手の男性が)法律をある程度知っていれば、強制執行は難しく、訴えられても逃げることができるとわかっている。民事なので支払わなくても逮捕されるわけではない。」(『東京貧困女子。』)
④生活費は夫の負担
イスラムでは夫に家族の扶養義務があります。これは女性の就労を禁じているわけではなく、女性が収入があっても家にお金を入れる義務はありません。たとえ夫より収入が多くても、です。
「女性の遺産相続分が男性の半分」と定められているのも、男性は家計を負担するからです。
「男は女の二倍相続するということをみとめたかわりに、家族の経済生活は男がうけもつこととされ、これもイスラームにおいて法律上の義務としてとりきめられた。家族の生活を保障できなければ、多額の費用がかかるメッカへの巡礼も禁止されている。
1962年にエジプトには、すでに女性大臣が誕生しているが、彼女は、「夫の収入より、自分の方が多いけれども、家計はすべて夫がまかないます。それは、イスラムにおける男の義務ですから」と話していた。」(『イスラームの日常世界』)
家にお金を入れる義務が基本的にないので、中には夫よりお金を持っている人もいるそう。
「生活費は、すべて男性の義務とされているから、仕事をもっている女性はもちろんのこと、一般に女性の方が金持ちだともいわれる。あとにのべる女性銀行には、女性たちが財産をもちこみ、「これは、家族のだれにも内緒にしておいてね」という人が多いと、女性支店長が語っていた。これらを資本にして、男性をエイジェントにたて、大がかりなビジネスをしている女性も、サウディアラビアをはじめ、あちこちに見られる。」(『イスラームの日常世界』)
(*:イスラムの夫婦の役割分担。「家計は夫の負担」は女性差別?)
20年間にわたり取材したイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。恋愛、結婚、歌と踊り、デート。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。
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