イスラムの断食ラマダンとは?
イスラム教徒はラマダンの1ヶ月間、断食をします。「ラマダンとは何なのか?」「なぜ断食するのか?」「1ヶ月も絶食したらガリガリに痩せ細ってしまうのでは?」‥そんな疑問にお答えします。
ラマダンとは?
ラマダンとはイスラム暦の9番目の月名のこと(断食のことではありません)。この月にコーランの最初の啓示が下ったため、とても神聖な月とされ、人々の信仰心が高まる時期です。
なぜ断食をする?
断食する理由は、コーランに「断食せよ」と書かれているからです。正確には「斎戒」で、欲望を断って心身を清めること。
「ラマダーンの月こそは、人類の導きとして、また導きと(正邪の)識別の明証としてクルアーンが下された月である。それであなたがたの中、この月(家に)いる者は、この月中、斎戒しなければならない。」(2:185)
飲食だけでなく、性行為やタバコ、嘘をつくこと、人の悪口を言うことなども禁止されます。水を飲むことも。神聖な月だからこそ、神を思い、祈りに集中するため、斎戒が命じられたのです。
多くのムスリムはラマダン中にコーランを毎日30分の1ずつ読み、1ヶ月で全体を通読することを心がけます。いつもはスカーフをかぶらない女性が、この月だけは髪を覆い、ゆったりとしたラインの服を着るようにもなります。貧しい人たちへの慈善活動も盛んになります。
断食する時間
断食するのは日中だけ。日が暮れたら飲食は自由です。コーランには断食の開始時間について、「白いとが黒いとから見分けられる時刻」とあり、日の出の時刻より1時間半くらい前です。
正確には断食は「ファジル(夜明け)の礼拝のアザーン」が聞こえてから、「マグリブ(日没)の礼拝のアザーン」が聞こえるまでです。
断食スタート前、午前3時くらいに「サフール(断食前食事)」を食べ、日没後に「イフタール(日没後の食事)」を食べます。イフタールから次のサフールの時間までは飲食自由です。
日中断食するのは大変ですが、つらいのは最初の2、3日だけで、それを過ぎると体が慣れてきます。
ラマダンはいつ?2025年以降のラマダンの日程は?
イスラムでは宗教行事はイスラム暦(太陰暦)で決まります。太陰暦は西暦より11 日くらい短いため、ラマダンの時期は毎年11日くらい前倒しになります。
2025年以降のラマダンの時期は次のとおりです。
2025年 3月1日~
2026年 2月18日~
ラマダン月の始まりと終わりはどうやって決める?
月の始まりと終わりは新月の確認で決まります。細い新月が見えたら始まり、次の新月が見えたら終わり。新月の確認は宗教者などが肉眼で確認し、テレビや新聞で伝えます。たいていは前日くらいにならないと、わかりません。
明日からラマダンだと思っていたら、天気が悪くて新月が確認できず、1日伸びたりということもあります。そこでラマダンの前後は、皆がソワソワして「明日はラマダン?」「明日で終わり?」とたずねあうことになります。
断食を免除される人
断食を免除される人がいます。病人、旅人、子供、老人、身体虚弱者、戦場の兵士、妊産婦、授乳している母親、生理中の女性です。
イスラムは人に苦行を強いる宗教ではなく、弱者へのいたわりが徹底している教えだからです。ただし老人を除いて、断食ができるようになったら、できなかった日数分の断食を行います。
旅人も断食を免除されているのは、本来断食は自分の家で心静かに行うもので、忙しく移動している人にはふさわしくないからです。旅行かどうかは、旅の日数と移動の距離で決まります。数日しか滞在せずに国を移動する場合は断食の義務はなく、10日以上同じ国にいる場合は断食をします。また同じ国の中でも21km以上離れいている町に移動すれば「旅行」とみなされ、9日以内の滞在なら断食は免除です。
断食できなければ貧者に施しをする
上記以外でも断食が辛いという人は、代わりに貧しい人に施しをすれば良いとされています。
「それに耐え難い者の償いは、貧者への給養である。」2:184
そのほか断食を免除される場合
ある年のラマダン月が例年にない猛暑だったとき、エジプトで「外で力仕事をする人は水を飲んで良い」というファトワー(権威ある法学者の意見)が出されたことがあります。またサッカー選手など、職業的にスポーツを行う人は、試合がある時は良いプレーをするため、日没前に食事をして良いというファトワーが出されたことも。イスラムは中庸を旨とし、命の危険を犯してまで断食を推奨することはありません。
(*イスラムのルールは厳しい?その教えは人にやさしく合理的。)
ラマダン中は太る!
実はラマダン中に太る人が多いのです。ラマダン中は、普段より豪華な料理が食卓に並びます。毎日が宴会のようなもの。実際エジプトなどでは、この月の食費は他の月より50%から100%増えるそうです。
またラマダン中は昼夜逆転の生活になりがちです。イフタールを食べた後、ほとんどの人は夜通し起きています。そして友人知人宅を訪問し、そこで砂糖たっぷりの紅茶やケーキやクッキーなどをいただくことに‥。
つまりラマダン月とは、夜の間に、普段よりずっと贅沢な食事やお菓子をたっぷり飲み食いする月だということ。そして若い女性の間では、ラマダン月にいかに体重増加を防ぐかが関心の的なのです。
ラマダンは家族のつながりを深める月
断食明けの食事イフタールは家族や友人など大勢の人と食べるのが良いとされ、ふだんすれ違いの家族もかならず食事をともにします。イフタールは1日の断食のつとめを守ったことを神に感謝し、喜びを分かち合うものだからです。これはイスラム圏どこでも同じ。ラマダン月の夜は家族や友人が集まる時で、イフタールは親しい人々とともに華やいだ雰囲気となります。。
またイフタールを他人にふるまうと、アッラーからの祝福(バラカ)がいただけるとされ、イフタールの食事会には非イスラム教徒を招くこともあります。
(*サウジアラビアでラマダン:家庭のイフタールとメッカとラマダンボックス)
ラマダンの特別なお菓子
ラマダン中には、各国で特別なお菓子が売り出されます。エジプトではクナーファやアターイフといった甘いお菓子を作って売る屋台が出て、カラフルな天幕で飾られます。
またタマル・ヒンディー(タマリンド・ジュース)、アルウース(甘草ジュース)、カマルッディーン(アプリコットジュース)など、ラマダンならではの飲み物もあります。各家庭では、断食明けの祭りイードのために、「カハク」というお菓子を手作りします。
ラマダン中の旅行の注意
ラマダン中の旅行は、日中のレストランが閉まる他は、特に問題ありません。むしろイスラムの国らしい、非日常的な楽しい経験ができるでしょう。ただしあらかじめ知っておいた方が良いこともあります。
*レストランはほとんど閉まる
日中ほとんどのレストランは閉まります。テイクアウトだけに対応する店もあります。スーパーなどで食材を買ってホテルで食べることはできます。ラマダン中は異教徒であっても人前での飲食はひかえましょう。
*夕食を食べ損ねない
日中閉まっていたレストランも、イフタールの時間に開きます。そして皆が一斉に食事をします。ですから料理がすぐになくなってしまう。出遅れると食べるものがない!ということにもなりがちです。
*役所などは早めに終わる
労働時間の短縮で、公的機関や商業施設が通常より早く閉まります。博物館などは通常より早めの時間に閉館になるところも多いです。
*お酒は飲めない
モロッコやエジプトなどイスラム圏には酒店があったり、お酒が飲める店があります。しかしラマダン中は営業中止です。外国人向けのホテルのバーなどもお酒はありません。
*ケンカや事故が増える
空腹のために街中では喧嘩が増え、交通事故も多い傾向が。特にイフタールが近づくと、家路に急ぐためにスピードを出すドライバーが増えます。
ラマダンはお祭り
「ラマダンの断食」というと苦行のようなイメージがありますが、ムスリムにとってラマダンは特別な月、お祭りです。日本のお正月に近いです。
ラマダン月が何より楽しいのはエジプトです。それも首都カイロ。旧市街「イスラミックカイロ」はとりわけ華やいだ雰囲気につつまれます。宗教歌手がコンサートを行っていたり、縁日のような出店が出て、輪投げや射撃ゲームを楽しむ子どもたちの歓声が響きます。
イスラム地区の中心にあるフセイン・モスク前の広場では、カフェで夜通し歓談を楽しむ人で賑わいます。老舗カフェ「フィシャーウィ」があり、断食明けの時刻以降は、座る場所がないほどです。
神の食卓
イスラム圏の国々では、モスク前や町のあちこちで「神の食卓」が用意されます。これは裕福な人がイフタールを無料で提供するもので、誰でも食事することができる。宗教や国籍の有無を問いません。(*カラチでラマダン:パキスタンの「神の食卓」)
ラマダン月ならではの楽しみ
ラマダンはイスラムの国にいることを体感できる、またとない機会です。日暮れ時が近づくと、町から徐々に人が姿を消していきます。イフタールに間に合うように、家路を急ぐからです。バスや車は猛スピードで町を走り、タクシーがなかなかつかまりません。
断食明けの30分前にもなると、町はゴーストタウンと化します。そんな中、時々猛スピードで走って行く車が。「イフタールに間に合わない!」と焦っているのです。そして断食明けの時刻になると、町に人っ子ひとりいなくなる‥。
こんなとき、イスラム圏にいることをひしひしと感じます。そしてイスラムの人々の暮らしが「宗教」を中心に回っているということが実感できるのです。
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