イスラムの戒律は厳しい?*柔軟で寛容・合理的な教え <イスラムはどんな宗教?>
イスラムは戒律が厳しい宗教ですよね?豚肉はダメ、酒はダメだとか。1日5回も礼拝しなきゃいけない。ラマダンは1ヶ月の断食‥
こんなに厳しい決まりに縛られて、ムスリムたちは楽しいのでしょうか?どうしてそんな決まりに従っているのでしょうか?
戒律は免除される人も
イスラムは「生活宗教」と言われるように、日常生活における様々な戒律(ルール)があり、それらがコーランに記されています。信者はそれを守ることで、天国へ行けるとされます。
よく知られたところではラマダン月の断食、豚肉を食べてはいけない、酒はダメ‥などです。
しかしそれらのルールは、免除される人もいます。
たとえばラマダン月の断食。これは病人、旅行中の人、子供、老人、身体虚弱者、戦場の兵士、妊産婦、授乳している母親、生理中の女性は断食を免除されます。
ただし老人を除いて、断食ができるようになったら、断食できなかった日数分の断食を行います。それでも断食できなかったら、貧しい人に施しをすれば良いことになっています。(コーラン2:184~185)
決まりには臨機応変に対応
またルールも絶対ではありません。
宗教的に許された食べ物をハラル食品と言いいますが、それが手に入らない場合には、必ずしもハラル食品でなくても良いとされる。絶対避けるべきは、豚肉や明らかにアルコールが入っているものだけです。
しかし豚肉も「他に食べるものがなければ、食べても良い」とされています。豚と知らずに食べてしまった場合も許されます。豚骨ラーメンを知らずに食べてしまった場合などです。
酒は禁止ですが、たとえば目の前に酒しかなく、「飲まないと死ぬ」ような時は許されます。炎天下の砂漠を歩いていて熱中症になりそうだが、手元にビールしかないというような場合です。
病気治療のためなら、アルコールが含まれた薬剤の処方も許可されています。
このようにイスラムのルールに「絶対」はない。実際には「努力目標」に近いのです。
なぜなら人間は弱いものであることを神はご存知。だから無理な戒律は課さないのです。
「われは誰にも、その能力以上の重荷を負わせない。」(23:62)とコーランにあります。
悪い行いは善行で挽回
イスラムでは、天国へ行くのもとても簡単です。良い行いをすれば天国へ、悪い行いをしたら地獄へいくことになっていますが、悪い行いをしたら即地獄へ行くのか?というと、そんなことはありません。
トータルで「良い行い」が「悪い行い」を上回ればいいのです。だから悪いことをしたら、良いことをして挽回すればいい。
お酒を飲んでしまったら、そのぶん真面目に礼拝する。礼拝をさぼってしまったら、貧しい人に施しをする‥‥。
コーランには「~してしまったら、~せよ(挽回せよ)」という記述が多数あります。
「断食することができるのにしなかった場合は、貧者に食物を施すことで償いをすること」(2:179)
善行が多めにカウントされる
トータルで「良い行い」が「悪い行い」を上回ればいい。ではその善行と悪行をどうカウントするのか?
イスラムは非常に寛大で、悪いことより良いことの方がポイントが高くなっています。悪いことが「ー1」としたら、良いことは「+2」とか「+3」です。
しかも良いことは「思うだけでも」+1です。貧しい人に施しをしようと思ったが、やっぱりできなかった。それでも+1。
逆に悪いことは、思ってもやらなければ、マイナスにカウントされません。(ああ酒が飲みたいな)と思っても、飲まなければマイナスされない。
またポイント倍増の日というのもあります。ラマダン月です。この月に良いことをすると、ポイントが倍加されるとコーランにあります。
善行によっては過去の悪行が帳消しになることも
さらに善行によっては、それまでの悪行がすべて帳消しになることもあります。
「(施しを)そっと隠して貧乏人にくれてやるならもっと自分の身のためになり、その功徳で(前に犯した)悪事まですっかり帳消しになる」(2:273)
イスラムには貧しい人に施しせよという教えがありますが、それをそっと人目につかないようにすることで、過去の罪が全て帳消しになる。
このようにイスラムでは誰でも天国に行けるようなシステムになっているのです。
「だからイスラムって、ぜんぜん厳しくないの」と、結婚を機に入信した日本女性は言います。
この「ゆるさ」が、世界中でムスリムが増え続ける理由の1つでもあると思います。(*:世界でイスラム教徒が増える理由)
イスラムの戒律は合理的
そもそもイスラムのルールには、守るだけの合理的な理由があります。
●<礼拝>
←決まった時間に礼拝することで、規則正しい生活ができる。立ったり座ったりしながら神に感謝することで、心を整え、体のコンディションも整えることができる。礼拝前に身を清めるから、衛生的。
●<ラマダン月の断食>
←断食することで肉体の状態を健康にし、肉体のクリーニングを行うことができる。食欲を抑えることで、自己抑制と精神力が鍛えられる。「飢え」を知ることで、貧しい人に思いをはせることができる。
(*:イスラム教のラマダンとは?)
●<喜捨>
←貧しい人を救うことができる。
(*:ザカートとサダカ<イスラム教の喜捨>)
●<巡礼>
←一生に一度広い世界を見て、イスラム教徒同士の団結心を強める。
(*:イスラム教のメッカ巡礼ハッジとウムラとは?)
● <豚肉を食べない>
←冷蔵技術が無い時代、豚肉は寄生虫が発生しやすく危なかった。
(*:イスラム教徒が豚を食べない理由とは?)
●<決まった作法で殺した動物以外は禁止>
←食べ物に対する痛みの気持ちを表し、神に願う。頸動脈を切って殺すのが、動物にとって最も苦痛が少ないと言われている。(*:ハラール食品とイスラム教の食事ルール)
●<飲酒禁止>
←酔って他人に迷惑をかけたり、アルコール依存症になったり、トラブルに巻き込まれる可能性があるから。
●<婚外交渉の禁止>
←女性の望まない妊娠などを防ぐため。
(*:イスラム教が男女隔離で婚外交渉を禁止する理由)
●<肌の露出禁止>
←痴漢やレイプ、職場におけるセクハラの防止。
(*:「女性は宝石」イスラム教の女性が髪や肌を隠す理由)
● <利子の禁止>
←利子で儲けるのは金持ちの搾取になるため。
戒律を守るのは楽しい
それでも日常生活に色々なルールがあるのは「窮屈だ」と思う方もいるでしょう。
でも何事もルールがあります。会社にもルールがあり、野球をするにもサッカーをするにもルールがある。
ルールがなければ、どうしたらいいか、わかりません。生きるにもルールがあった方がいい。
しかもイスラムのルールは偉大なる神様が決めてくださったもの。これを守るのは信者の喜びです。
なおかつルールを守ることで天国行けるという「ゆるぎない安心感」がある。
決していやいや従っているわけではないのです。
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