エジプト結婚事情*結婚制度や結婚式の流れなど
エジプトの結婚制度や結婚式の流れについてご紹介します。
男性の経済的負担が大きいエジプトの結婚
アラブ世界で共通していますが、エジプトでも結婚に際して男性の経済的負担が大きいです。
男性は結婚する時、女性に「マフル (婚資)」や「シャブカ(貴金属の贈り物 )」を贈る必要があります。マフル には 「前」と 「後」があり、「前」は結婚前、「後」は離婚した場合に払います。前と後の割合は「2~4:6~8」。前払いと後払いを合わせて年収の3~5倍です。いとこや知っている相手は安くなります。(よく知らない相手の場合、相手の本気度を確かめるために高くなる傾向が)
加えて新居や結婚式の費用なども必要です。新居はアパート購入が理想的とされ、年収の2倍くらいに相当。エジプトの都市部では、結婚後に夫の両親と同居というケースはあまりありません。
このように膨大なお金がかかるため、結婚費用をためるのに何年もかかるのが普通。副業したり産油国へ出稼ぎに行く男性が多数います。
持参品は男女で分担
新生活に必要なもの=持参品は、男女で役割分担が決まっています。
新郎‥‥住居(持ち家が望ましい)、大型家具(ベッド、応接セットなど)、結婚諸費用、結婚後の生活費など。
新婦‥‥食器、調理器具、リネン類、婚約式の費用など。家財道具は新郎からのマフルに同定額の金額を足して用意します。
この分担は国によって違います。ただしアラブ世界どこでも、結婚前に家と家具が全てそろっていなければなりません。
家財リストを作成
新婦が持参する家財道具のリストを作成します。(このリストを「カイマ」と言います。)リストには個々の家具の数,値段、形状などを記載します。(テレビならメーカーや型番、年式。コップなら個数などといった具合です。)値段についてはサバをよむことも横行しており、けっこうトラブルもあるそうです。
持参品は結婚後も彼女の個人財産で、夫は勝手に処分できません。離婚の場合、彼女は全て実家に持ち帰ります。夫が壊した場合には、同程度の金銭で弁償しなければなりません。このように女性の権利がかなり保護されている。
エジプトの結婚式の流れ
①結婚の申込
男性は気に入った女性がいたら、女性の父親に結婚の申し込みをします。父親はすぐに返事をせず、「ちょっと考えさせてくれ」と一週間くらい保留にします。
この間に相手の情報収集をし、家柄、評判、素行、人柄、学歴や職業 (経済力)などを調べます。相手の職場への聞き込み、家の近所で周囲の人に彼の評判を聞く、といったことなども行われます。
彼の素性がOKとなったら、次のファーティハ式に進みます。
②ファーティハ式
女性の家に男性の家族が来て、全員でコーランのファーティハ章を唱えます。つまり結婚の約束を神に誓うわけです。これはあくまでプライベートな式で、本人たち、両家の父親、叔父、兄などが参加します。
ここでマフルやシャブカの額、今後のスケジュールなどを話し合います。イスラムでは結婚は契約で、マフルなしの結婚は無効です。マフルは「前」と「後」があります。特に後マフルについては娘の将来がかかっているので、女性の父親も必死になります。
シャブカは金の指輪や腕輪、首飾りなどで、だいたいマフルの半額以下です。指輪が最も重要です。これらの金額などは、双方の経済力や階層などによって様々です。
③婚約式(シャブカ)
男性から女性に指輪を贈る式です。女性の右手の薬指にはめ、床入り式の後に左手の薬指に移します。「婚約」といっても、「結婚のかたい約束」というより、家族公認の「お付き合い」といったイメージに近く、破談になることも少なくありません。シャブカ式と契約式は、花嫁の家で行います。
④結婚契約式(カタブ・アルキターブ)
イスラムでは結婚は契約。そのため契約書を作成します。(*イスラムの結婚ルール)契約書を作成するのがこの「契約式」で、結婚で最も重要な部分です。マーズーン(婚姻公証人)立ち合いのもと、新郎、新婦の後見人 (父か叔父)、2人の証人が集まり、書類を作成します。
契約書には男女それぞれの名前や年齢、両親の名前、仕事、マフル(前と後)の金額などを記載します。夫が結婚している場合には、妻と両親の名前も書きます。イスラムでは一夫多妻が認められているからです。
そして新郎新婦と証人すべてが署名し、翌日にマーズーンがそれをイスラム裁判所に届け、2人は法的に夫婦になります。
法的には夫婦ですが、まだ一緒に住めるわけではありません。一緒に住むには床入り式(周囲へのお披露目)を終える必要があり、その前に新居と家財道具が全部そろっていなければなりません。ですからこの段階では、まだ手をつないで外を歩いたりはできません。また婚約はしばしば破棄されます。
⑤結婚式(床入り式)
通常日本で「結婚式」と言われるものです。エジプトでは金曜日が休日で、その前日の「花の木曜日」によく行われます。
その前日の水曜日の夜には、「ヘナ(ヘンナ)の夜」という小さなパーティが開かれます。身内や友人が集まり、花嫁・花婿の手足にヘナを施す催します。これは新郎新婦それぞれの自宅で行います。
床入り当日は、まず町の写真館で記念撮影が行われ、新郎が新婦を実家に迎えに行き、パーティを行います。終わったら2人は新居に移り、そこで初夜となります。
床入りはとても重要で、この後に仮に離婚した場合、マフル は全額花嫁のものに。床入りがすんでいなかった場合は半額が支払われます。
⑥サバヒーヤ
床入りの翌日は「サバヒーヤ」と呼ばれます。両親や兄弟、姉妹などが2人を訪問し、現金のご祝儀を渡したりします。友人などは数日たってから訪ねることが多いです。その際は家財道具のお披露目会となります。
家財道具は彼女が夫のマフルや両親からの援助で購入したもので、その立派さが夫の経済力や妻の家族の支援を誇示します。ここでは「わー、素敵!」とほめるのが礼儀です。
祝宴は歌と踊り
結婚式の披露宴は歌と踊りがメインです。庶民は新婦の家の前の路地で行うのが一般的で、夜7時くらいから始まります。終わりは夜中。その間、プロの楽団が奏でる大音量の陽気な音楽が流れ続けます。(これは周囲にかなり迷惑では)と、日本人的には思ったりしますが、エジプト人はむしろ楽しんでいます。かなり国民性の違いを感じます。
またエジプトの結婚式は男女一緒が普通。対してサウジアラビアなど湾岸諸国は男女別です。モロッコやチュニジアなど北アフリカの国々も、披露宴は男女別でした(あくまで私の経験です)。
式が終わるまで2人で住めない
結婚契約がすんでも、最後の「床入り式」がすむまで、2人で住むことはできません。イスラムの結婚では「周囲に知らしめる」こと、つまり披露宴が重要視され、式がすまないと正式な夫婦とみなされないからです。契約がすめば2人きりで出かけることはできますが、デートの時に、彼女の姉妹などがついてくることが往々にしてあります。
エジプト男性は大変
エジプト人男性は大変です。結婚には膨大なお金がかかる上に、プロセス完了まで(原則)2人きりでは会えない。
イスラムでは男性の方が離婚しやすく、複数の妻を持つことができ、遺産相続は女性が男性の2分の1。一見、男性が優遇されているようですが、ことはそう単純ではないのです。
男性の経済的負担はかなり大きく、結婚後は夫が家計を負担するのが義務です。女性が受け取ったマフルとシャブカは彼女の個人財産で、離婚しても返す必要はありません。
ただ十分な生活費を妻に渡さない、新しい妻をめとって以前からの妻とその子を顧みないなどの夫もけっこういて、話は単純ではありません。
エジプトの一夫多妻
エジプトでは法律によって、既に妻のいる男性がもう1人と結婚する場合、マアズーンを通して妻にこれを告げ、その承諾を得ることが決められています。もし彼女の同意なく結婚した場合、妻はそれを知った時から1年以内であれば離婚を要求できます。
20年間の取材によるイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートあり。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。
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