トゥルトゥク村のイード・アル=アドハー(イスラムの犠牲際)2023年6月
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トゥルトゥク村。インドのラダック北部ヌブラ渓谷にある。村を訪れるにはインド政府の特別許可証が必要。レーの旅行代理店で取得できる。
今年のイード・アル=アドハーは、インド北部の小さな村トゥルトゥクTurtukで迎えました。トゥルトゥクは外国人が入域できるエリアとしてはインド最北端にある村。パキスタンとの停戦ラインから10kmのところにあります。1971年の第三次印パ戦争前までパキスタン領でした。
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村のコーラン学校で、シェイク(イスラームの指導者)のもとでコーランを学ぶ子どもたち。
このあたりはパキスタン北部まで広がるバルティスタンという地域で、住民はムスリムのバルティ人。村は標高約2,700mにあり、約3千人がくらしています。
イード・アル=アドハー(イスラームの犠牲際)とは
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アフマドとお母さん。
イード・アル=アドハーはイスラムの2大祭りの1つ。メッカ巡礼が行われる巡礼月(イスラム暦第12月)の10日に行われます。
この日人々は各家で動物をほふります。これはイスラム教徒の大先祖アブラハム(イブラヒーム)が、一人息子のイシュマエルを神の命令にしたがって犠牲に捧げようとしたという故事にもとづくものです。
トゥルトゥク村のイード・アルアドハー
私はトゥルトゥク村でホームステイしていた家族とイードを過ごしました。これまでイスラム圏の色々な国で犠牲際を過ごしてきましたが、この村で体験するイードは、他とは違うユニークなものでした。
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左にいる人が、コーランの章句を唱え、それが終わると動物をほふる。
まず犠牲になる動物を悼むためにコーランの章句をとなえ、それから頸動脈を切ってほふります。
そして足の皮膚を切り開き、そこから息を吹き込みます。体にパンパンにすることで、皮をはぎやすくするためです。こういった動物を屠り、解体するプロセスは、どこのイスラム圏でもほぼ同じです。まるでマニュアルでもあるかのようです。
皮をはいだら、お腹に切り込みを入れて内臓を取り除きます。そして肉と内臓を別々の入れ物に入れます。
胃袋や腸などは中味を処理し、きれいに洗います。これも食べるのです(日本のモツ煮みたいなものですね)。村民たちは、小川(用水路)で内臓を洗っていました。
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圧力鍋を用いて煮込む。圧力鍋はインド製。インドの家庭では圧力鍋で調理するのがほぼ定番。
肉の料理方法は、味付けはマサラ(市販の調合スパイス)、塩、ターメリック、タマネギ、乾燥ハーブなど。最後に肉を淹れます。内蔵を煮込んだものは日本でいう「もつ煮」みたいな味です。
肉はみんなで分け合う
肉は3等分します。3分の1は地域の皆で分け合い、3分の1はモスクへ。残りが自分たちの分です。これはイスラムの決まりによるもので、どこの国でも一緒です。
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調理した肉は、この地域でとれる素材を使った木のかごに入れられ、地域の人に分け与えられる。
この村の場合、モスクに集まった肉はよそから来た人の元にわたります(トゥルトゥクには建築労働者で働くネパール人、インドの他の地域から派遣された学校の先生などがいます)。
トゥルトゥク村のイード・アル=アドハーがユニークなのは、子供や大人が村の家々を訪ね歩き、肉をもらって回るのです。手に手にビニール袋を持って。
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アフマドの家でも、訪ねてきた人に肉を配り、料理したごはんと肉で人々をもてなす。
家々では、訪ねてきた人に肉やごはんをふるまいます。そのほか、自分の家の肉を配るために近所の路地に立っている人もいます。
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この日村を歩いていると、いたるところで、肉を持って通る人を待ち構えている人に出会う。右はアフマドの奥さん。
こうして各家でもらった肉が次々にビニール袋の中にたまっていくのですが、はっきり言ってごっちゃ混ぜです。日本人的にはどうかなと思ったりするのですが、どこの家も同じような調理方法。だからきっと問題ないのでしょう。私もビニール袋を持ってくればよかったなと後悔しました。
いっしょくたになってしまうけれど、それはどこか村民たちがお互い同士交わり合うのに似ているような気がします。人口3000人ほどの小さな村。村人全員が知り合いで、言ってみれば村全体が大きな家族みたいなもの。お互いの家を訪ね歩いて肉をもらって歩くというのも、村人たちのつながりをさらに強めるために一役買っていると言えるでしょう。