2022-01-25

女子割礼はイスラムの教え?*【アフリカの古い風習】

イスラム女性のヒジャブ

エジプトの若い女性たち。

女子割礼は近年、女性の人権を侵害する行為として「女性性器切除(FGM)」と呼ばれ、非難の的になっているといいます。なぜ割礼をするのか?割礼はイスラムの教え?女性たちはどう思っているのでしょうか?

割礼とは?

「割礼」は外性器の一部に施される手術のことです。

・「男子割礼」
ペニスの包皮を環状に切除する手術。イスラム世界のほとんどで行われている。

・「女子割礼」
陰核の包皮のみか、陰核そのものを切除する手術。(ただしソマリアやスーダンでは、陰核のほかに外陰唇、内陰核を切除することもある)エジプト、スーダンなど東北アフリカ、西アフリカなどに限られている。(「岩波イスラーム辞典」)

男子と女子の割礼

男子の割礼はイスラム教の推奨行為ですが、女子割礼はイスラムとは無関係です。エジプトの宗教指導者は語ります。

「ところで、エジプトでは、割礼をする女性がいますが、それはイスラムの義務ですか?」
「違います」
「でもエジプトでは、割礼している人はたくさんいますね」
「それはイスラムの教えをよく知らないからです」
「では、何のためにするのでしょう?」
「イスラム以前の習慣が今も残っているだけです」
「男の子の場合はどうですか?」
「男子は割礼しないのは良くない。すれば、陰部がきれいになり、臭いも良くなります。割礼しないと精子がそこにたまって、妊娠を妨げることもあります。だからエジプトでは、男子はほとんどすべて割礼します。そうすれば男性は強くなり、たくさんの子どもができます」(「女ノマド、一人砂漠に生きる」)

コーランは女子割礼を命じていない

コーランにには女子割礼を命じる規定はありません。

「エジプトでも、イスラーム学の最高権威、アズハル機構の前総長ガードルハック、および現総長タンターウィーは、ともに女子割礼はイスラームとは無関係であるという見解を公にしている。そして、今日エジプトでは女子割礼は違法行為とされている。」(「いまを生きる人類学」)

イスラム社会以外でも行われている

女子割礼はイスラム社会以外でも行われており、このことからもイスラムとは無関係だとわかります。

非ムスリム社会でも女子割礼の慣行は存在している。中東ムスリム世界でも、たとえばモロッコなどのマグリブ地域やシリア、イラク、トルコ、イランなどの西アジア地域では、男子割礼はおこなわれても女子のそれは実施されていない。」(「いまを生きる人類学」)

なぜ女子割礼を行うのか?

エジプトでは都市の高学歴層を中心に、女子に割礼を施さない人も増えてはいます。一方で、特に地方の農村部などでは、まだ行われているのも事実。民衆の誰もが正しくイスラムを理解しているわけではなく、多くの人は女子割礼をイスラムの義務と信じているためです。

女子割礼を行う理由として、エジプト・スーダンでは、男女ともこのような理由をあげます。

・「良い伝統」
・「宗教の義務」
・「処女性の保持」

「ウンム・オモネイヤは7才の時に割礼している。初夜の時、血を出すためと母親から言われたそうだ。
「ミニヤでは、ほとんどの女性が割礼をしていたわ。男も割礼した女性が好きなのよ
割礼は娘の性欲をおさえ、結婚前の男女関係を防ぐと考えられている面がある」。」(「女ノマド、一人砂漠に生きる」)

女性たちは割礼をどう思っている?

また女性自身、割礼を良いことと思っている側面もあります。割礼について女性の次のような意見もあります。

「女性を清浄で、清潔、なめらかにするためのもの」
「割礼をすることで女性は清潔に女性らしくなり、性欲がわき、男性の精子を受け入れて妊娠する機会が増す

イラン人文化人類学者フードファルが、エジプトのカイロで行った調査では、女性たちは割礼を行う理由について、こう述べたそうです。

・女性は清潔に、柔らかく、女性らしくなる。
性欲が湧き、男性の精子を受け入れ、妊娠する機会が増す
割礼されていない女性はセックスに無関心になり、夫の性的欲求を受け入れられない

その世界独自の価値観がある

フードファルはエジプトでの調査の前には、欧米でのFGM廃絶運動の主張に一定の理解を示していました。しかし現地でこの習慣が庶民に根強く保持されていることを知り、こう書いています。

「フェミニストの文献を読むことによって得た私の期待とは裏腹に、(カイロの)女性たちはしばしば自分たちの割礼経験をいっしょに分かち合い、自分達が受けたショックや苦痛を快活に語るのであった。ある意味では、女性が共有するこの経験は、女性らしさの世界への通過儀礼なのであった。・・・私の観察所見、ならびに割礼を受けた女性たちとのたくさんの話し合いは、このトピックについて私がイギリスで来たり読んだりしたものと矛盾するものであった。
私は男性が女性割礼に関して、ほんの僅かな直接的な役割しか演じていないことを知った。さらに、女性たちの躊躇するところのない、開けっぴろげな性的快楽に関する話し方は、割礼を受けた女性は性的な関心や感情を喪失するというフェミニスト文献の一般的な前提とも矛盾するものである。」(「いまを生きる人類学」)

女性器を切除するのはたしかに痛々しい行為だが、現地ではそれを支持している女性もいる。その世界観・価値観への理解も一考の余地があるかもしれません。

自らも女子割礼を受けた、アメリカに住むソマリ人女性・アマンはこう語ります。

「アフリカ人の割礼の習慣について、ヨーロッパの多くの人たちが、あるいはどこの国であれ、多くの白人たちが、いろいろなことをいっているのはわたいも聞いている。‥これはわたしたちの文化であり、宗教であって、他の国のひとたちが他の国の文化をとりあげることなどできないはずだ。もしソマリアの女たちが変わるとしたら、それは私たちの手によって、内部から変わっていかなければならない。他の国の人たちが私たちにそれはやめろとか、こうするべきだと命令するのは、屈辱的なことなのだ。アドバイスするのはいい。でもそれを押しつけてはほしくない」(「いまを生きる人類学」)

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