チュニジアの結婚式*初夜までの1週間に密着!
チュニジアで1週間続く結婚式に参加しました。チュニジアの結婚式は、最近は簡略化されて2、3日ということもあるものの、少し地方に行けば1週間ほど行われるのが普通です。その一部始終をご紹介します。
1日目*ハマムの清めとヘナの夜会
結婚式はまず、新婦がハマムで身体を洗い清めることからスタートします。ハマムとはアラブ世界の公衆浴場です。(*「ハマムで女磨き」)初めて肌を重ねる旦那様のために、全身を美しく魅力的に仕立て上げるのです。
ハマムから帰った夜は、ヘンナの夜会が催されます。ヘンナ(ヘナ)は植物の葉を乾燥させて粉末状にした天然の染料。イスラム社会ではヘンナは喜びと幸福の象徴で、結婚式や祭礼の日などに描かれます(おそらくインドが発祥と思われます)。アラブの結婚式では手だけに描くことが多いのですが、チュニジアの場合、手と足に施します。
30人ほどの女性たちが車座になり、太鼓に音色に合わせて低い声で朗々と歌う中、新婦の友人たちが新婦の手足にヘンナを施す。描いた後は、ヘナの色素を肌に定着させるため、花嫁の手足を布でぐるぐる巻きに。花嫁は一晩中この状態で眠るのです。
3日目*新郎側から贈りもの贈呈
3日目。花婿側の女性たち30人くらいが贈り物をもって花嫁の家を訪れました。贈り物は衣類やシーツ、布団などなどです。これらが玄関前に用意されたテーブル上に並べられ、それを囲んで両家の女性たちが踊ります。
そしてメインの贈り物である貴金属品の贈呈が。
花嫁の持参品のお披露目
花嫁の家では、1室がまるまる持参品のために使われ、この日のために買い集められた持参品が並べられます。それを花婿側の女性たちが吟味。
アラブの結婚式で驚くのは、持参品の量。(*「知って驚き!アラブの結婚制度」)この家でも、食器棚や食器類、シーツや毛布、カーペット、シャンプー、石けん‥畳20畳ほどの部屋を埋めつくし、足の踏み場もありません。
持参品が少ないと、花婿側からブーイングが出るとか。さて花婿側の評価は?
「ステキだわ」という声もあったものの、「他の家はもっと多かった」、「カーペットが少ない」などの酷評がけっこうあったそうです。
3日目*贈り物のお返し
花婿側から贈り物をいただいた日の夜、お返しに花嫁の家から花婿宅へクスクスが届けられます。これには「オスバーンعصبان」という食べ物がのっています。
オスバーンは、羊の胃袋の詰め物の料理。チュニジアではイードや結婚式などお祝いの時に食されます。(オスバーンのレシピはこちらにも詳しく書かれています。)
クスクスを届けたら、家の中庭でダンスパーティ。このように、常にダンス、ダンス、ダンス……。
ただし踊るのはいつも女性だけで、男性はおとなしく見守るばかりです。
4日目*新婦宅のパーティ・5日目*新郎宅のパーティ
4日目・5日目は花嫁・花婿の家それぞれでパーティが行われます。パーティのスタートは夜7時、終わりは真夜中です。
女性のパーティには女性の楽団が出演。参加者は楽団の歌と音楽に合わせ、入れ替わり立ち替わり踊ります。
食事はなく、ただひたすら踊りです。よく体力がもつものです。
一方で、男性の宴といえば地味なもの。ただお茶を飲んで挨拶するだけです。
6日目*披露宴と床入り
いよいよクライマックスである床入りの日がやってきます。この日の朝、花嫁は全身を脱毛。初めて肌を重ねる旦那様のために、すべすべのすっきりとした肌にするのです。イスラム教徒の脱毛とは全身の毛のすべて剃るのです。「男は毛が嫌いなのよ」と花嫁。
担当は、新婦のお姉さんと友人のお母さんです。なんと「あの部分」を剃るのも彼女たち。いくら同性同士といえども、私なら恥ずかしくて、とてもできません。
2人の新居に持参品を運ぶ
花嫁が脱毛している間、家族たちが新居へ持参品を運び込みます。しめてトラック6台分。
新居はできたてのホヤホヤです。アラブ社会では結婚にあたって男性が新居を用意することになっています。(*イスラムの結婚は男性の経済的負担が大*マフル、持ち家、離婚時の慰謝料)
当然お金がたくさん必要ですから、お金がなくてなかなか結婚できない男性も少なくありません。この新居は、結婚式にやっとのことで間に合ったようです。
ベッドにハートマークが。
寝室にはキングサイズのダブルベッドがどーんと置かれ、ベッドシーツの上には、キャンディでハート模様が!その中心には夫婦のイニシャルまで描かれています。新婦のお姉さんたちがつくったもので、2人の初夜への祝福の気持ちです。
性に関しては「うしろめたい」といったイメージはなく、実にあっけらかんと明るくオープンです。
花嫁が新居を見るのは結婚後
そしてなんと驚くことに、新婦はこの時点で新居をまだ一度も見ていないのです。
持参品が新居に運び込まれている間、彼女は美容院で身支度。床入りパーティ(披露宴)に向けて美しく着飾ります。
身支度が終わる頃、私たちは美容院に向かい、そこで彼女をピックアップ。
美容院からの車の中で彼女はしきりに、「シャンプーはどこに入れたの?」、「食器棚はどの部屋に置いたの?」と訊いていました。
美容院から彼女を乗せた車が到着すると、皆がいっせいに車を取り囲みます。そして披露宴に突入。中庭にしつらえられた台の上に花嫁が立ち、彼女を囲んで女性たちが手拍子を叩きながら歌います。
スタートから15分ほどたった頃、新郎がはにかんだ笑顔でガチガチに緊張しながら登場しました。壇上に登り、新婦の隣に立ちます。私はこのとき初めて新郎を見ました。それまで式はずっと男女別々だったからです。
その後、一行は夫婦の新居へ移動。中庭で同じことがくり返されます。やがて歌声と拍手が最高潮に達する頃、新郎新婦は皆に手を振り、寝室へと消えていきました。こうして花嫁が自分の両親の家からヘンナを塗って出てゆく。
チュニジアでは、これが彼女が実家から新しい家に移るサインで、結婚して生まれ変わる瞬間です。
7日目*処女の証明
そして床入りの翌朝。花嫁の純血を証明するという大切なステップがあります。具体的には血の付いたハンカチを両親などに見せるのです。彼女が処女だったという証明です。
しかし純血の証明については、アラブの中でも最も西欧化していると言われるチュニジアでも行われるとは、思っていませんでした。しかもここは村落部ではなく都市部です。
ちなみにこの習慣はイスラムから来ているというわけではありません。エジプトのキリスト教徒でも行われます。いわば地中海世界の慣習です。
アラブ女性は今もほとんどが処女でお嫁に行きますが、これはチュニジアの女性も同様。「ハンカチに血がつかなければ、すぐに離婚されてしまうわ」と花嫁は不安そうに話していました。
というわけで、この日の朝、新婚の2人から母親のところへ電話が入ることになっていました。「無事おわったよ!」の報告が。
しかし待てども待てども電話がありません。お母さんもお姉さんも、やきもき。「もしや‥処女じゃなかったのでは!?」と、いてもたってもいられません。
自家製のオリーブオイルを自家製のパンにたっぷりつけた朝食を食べながら、「まだかまだか」と電話を待ち‥‥ようやくお昼近くに吉報があった時は、家族みんな、ぐったり疲れはてていました。
結婚までは寂しがらせる
彼女たちの式は、床入りの日以外はすべて男女別です。その間、2人は顔を合わせず、携帯でも話ません。
私なら、きっと結婚前からイチャイチャ長話しそうですが……。花嫁はその点、バッサリ切り捨てます。
「結婚前に連絡とりすぎると新鮮みがなくなるわ。それに彼をさみしがらせれば、結婚してから大事にされるの」
一方で、アラブの花嫁のたしなみである、セクシー下着をそろえることも忘れません。
イスラムでは結婚後の性生活を大いに楽しむよう教えます。そのためになくてはならないのがセクシー下着なのです。彼女の持参品の部屋にあった大きなスーツケース二つには、はみ出んばかりに真っ赤なスリップ、ブルーのネグリジェ、ピンクのパンティ……セクシーランジェリーがびっしり詰まっていました。
彼女はそれを私に自慢げに見せながら言います。「チュニジアでは花嫁はみんな結婚の時に12色の下着をそろえるのよ。パンティとブラジャーとスリップをそれぞれね」
子どもはいつ頃欲しい?という私の質問に「結婚したらすぐよ。花嫁がハッピーなら、すぐ妊娠することになってるの」
その言葉どおり、彼女は一年もたたないうちにかわいい女の子を産んだのでした。
20年間にわたり取材したイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。恋愛、結婚、歌と踊り、デート。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します