自分で育てた動物を食べる*エジプト家庭料理
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田舎の家で飼っている動物たち。牛はミルクを飲んだり、まとまったお金が必要な時に売ったりもする。肉を食べることもある。
自分で育てた動物がおいしい
エジプト人は食べることに手間ひま惜しまない人たち。手作りにこだわりが強い(たとえばパン)。肉も同じで、自分で育てた動物の肉を食べるのを好みます。買ってきた動物の肉はどんなエサを食べているかわからないから、また自分で育てた動物の肉の方がおいしいからだそう。
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農村地帯で見られる食用のハト小屋。日干しレンガを積み上げてつくり、壁面にハトの出入り口と、羽を休める止まり木がいくつも設けてある。ハトは朝好きなところへ出かけてエサを食べ、夕方になると巣に帰ってくる
ニワトリはヒヨコを買って、自分の家で育ててから食べる。「その方がタビアイ(自然な)だから」と友人のアマルさん。
そこで田舎の家はもちろん、町中でもスペースに余裕があれば、食用の動物を飼っています。農村部では食用のハトを育てるハト小屋をよく見かけます。ハトは売る場合もあれば、自分たちで食べることも。ハトを食べる時は1人につき1匹です。
アヒルの丸焼き
エジプトでは金曜日が休日。その日のランチは、ふだんよりちょっと贅沢なものを食べます。この日はアヒルの丸焼きをアマルさん宅でいただきました。もちろん自分の家で育てたもの。アヒルは生後数ヶ月。まだ若いから肉もやわらかなことでしょう。
子どもたちもアヒルを殺すところから手伝います。
神様に感謝の言葉をささげてから、首の頸動脈を切ってほふります。これがイスラムの定める食肉処理の方法ですが、一番動物に与える苦痛が少ないから。そしてしっかり血を抜きます。
毛をむしりやすくするために、熱湯にしばらく浸します。そして家族で手分けして毛をむしる。なかなか毛がむしれず、なんども熱湯につけたり出したりを繰り返します。
丸裸にされたアヒル。頭や内臓ももちろん料理して食べます。
内蔵を取り出して空洞になったところに、スパイスをまぶしたサラダをつめて、植物の葉で閉じて煮込みます。この煮込んだスープでモロヘイヤ・スープや白いんげんの煮込みなどを作ります。
この日の昼食はご飯、白インゲンのトマト煮込み、モロヘイヤ・スープ、サラダ・バラディ、アヒル肉のスープ、アヒルの丸焼き。
印象的だったのは、動物を殺すところを子どもたちが全く怖がっていないこと。こうしてエジプトの子どもたちは、自分たちが食べるために他の動物たちの命をいただいていることを、小さなうちから学ぶのでしょう。
「食べる」が中心の人生
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アマルさんの家では牛やアヒル、ダチョウ、ニワトリなどを飼っています。食事で出た残飯は家畜のエサになり、それらを食べて育った動物を人間が食べる。ほどよい循環が回っています。
ほふって毛をむしって、内臓をとりだして‥を見ていると、日本人の私は(うーん、なかなかめんどくさい)などと思ってしまうのですが、食べることに手間ひまかけるって、それはそれでいいものだなとも思います。
現代人はついつい仕事やらなにやらが忙しくて、食についてはいかに手間を省くかばかり考えている。惣菜とか、レンジでチンしただけで食べられる便利なものがたくさんあるものだから。
それに比べて、口に入れるものを長い時間かけて育てることから始まる食は、なんと気が長いことか。
でもそれによって自分たちが他の命をいただいて生きていることを、まざまざと体感できる。子どもたちにとっては、食べ物のありがたさを知る良い機会でしょう。
趣味や仕事が忙しくて、料理したり食べたりしている時間がもったいない、という人もいて、それはそれでいいことでもあるのですが、そもそもの人間生活の中心は「食べる」じゃないかとも思います。
自分の口に入れるものを育て、ほふり、刻んで料理する‥食べることにたっぷり時間を費やせるのは、実はとても贅沢なことかも。
でも動物を育てているうちに愛着がわいてきて、その後で殺してパクッと食べるなんて、できるのかな?と、やわな私はいつも考えてしまいます。