2016-12-28

イスラム社会では老人はどのような扱い?

チュニジア女性

チュニジアで家族と一緒にくつろぐおばあさん(右)

イスラム社会では老人はどのような扱いなのでしょう?またイスラムでは、老人への接し方について何か決まりがありますか? そんな疑問に答えます

老人ホームは少ない

イスラムの老人

エジプトのおばあちゃん。メガネが片方割れているけど、とても表情が良い

私の経験上、イスラム圏の老人は人生最後を家で終える人がほとんどです。老人ホームはないか、非常に少ない。年老いた両親をホームに入れるという発想自体がないのです。家族は両親を最期の日まで面倒を見ます。

イスラム教徒は常に年長者を敬う。寝たきりになった老人を、家のいちばんいい場所(たいていはリビングルーム)に寝かせ、家族全員で面倒を見る光景を何度も見てきた。トルコに老人ホームはない。もしかしたらいくつかはあるのかもしれないが、私が出会ったひとたちはみんな自分たちの手で介護していた。病院に入っている場合でも、親族や友人がひっきりなしにお見舞いに訪れる。」

(「破婚 18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間」)

社会は老人にやさしい

エジプト男性 イスラム教の男性 egypt man

アラブのご老人たちは、本当に良い顔している。 人間というのは、それまで生きてきた人生が顔に出るもの。その意味では、老人たちが良い顔をしている国は、きっと穏やかな国にちがいない。

町中で若い人が老人を助ける姿もよく目にします。道路を横断できなくて困っている老人がいると、若者がさっと走り寄って手を引き、いっしょに渡る。混んでいる電車の中に老人が乗ってきたら、座っている人はとっさに席をゆずる。その確率はほぼ100パーセントです。

「エジプトの路線バスに乗っていたら、老女が男性2人にかかえられて乗ってきた。男性たちは老女を席に座らせると、降りて行った。たまたま道で彼女を見かけ、手を貸したらしい。老女はほとんど一人では歩けない様子で、こんな状態で目的地まで行けるのだろうかと他人事ながら心配になって見ていた。

 やがて20分ほどして、老女は降りることになった。すると、これまたバスに乗っていた男性2人がさっと席を立ち、老女を抱きかかえてるようにして外に下ろしていた。

 地下鉄で老人が乗ってきたら、座っている若者はさっと席をゆずる。そのフットワークの軽さは、日本の電車内では残念ながらあまり見られない。譲られた方は実に堂々としている。日本では老人が「すみませんね‥‥」などと頭を下げるシーンもあったりするが‥‥。(『イスラム流幸せな生き方』)

コーランの「両親にやさしくせよ」

老人など弱者にやさしくせよというのがイスラムの教えです。ラマダン月の断食も、老人、病人、妊婦、10歳以下の子、旅人、交戦中の兵士は免除されています

老親にやさしくせよ」と、コーランの複数箇所に書かれています。

両親にはやさしくしてやれよ。それから近い親戚や孤児や貧民にも、また縁つづきのものや血縁の遠い被保護者、(僅かな期間でも一緒に暮らした友)、道の子(旅人)、自分の右手の所有にかかるもの(奴隷たち)にも。』(436節)

コーランにおける「10の命令」とされるものがあります(第6章151~153節)。「人として何が大切か」を説いたものです。「両親にやさしくすること」が、「神」の次に大切なものとされているのです。

1 アッラーの他に一切の神を認めないこと
2 両親にやさしくすること
3 いくら貧乏でも自分の子供を殺さないこと
4 性的な不品行なことに近づかないこと
5 人を殺さないこと
6 孤児の財産を守ること
7 商売において計量をごまかさないこと
8 公正な発言をすること
9 神との契約を履行すること
10 イスラムの教えに従うこと (第6章151~153節)

コーランには「親にやさしくしろ」とあるものの、「老人にやさしくしろ」とは書いてありません。しかしムスリム曰く「老人は他人の親、自分の親と「親」であることには変わりがない。だからやさしくするのだ」と言う。

宗教か風土か?

では人々がとっさに老人を助けるのは、宗教の教えだけが理由なのでしょうか? ヨボヨボの老人が道を渡ろうとしているのを見て、さっと手を貸す。バスで電車で、さっと席をゆずる。これを頭の中で「老人にやさしくすれば天国へ行けるから」と思ってやっているのでしょうか?(イスラムでは善行をすることで天国へ行けるとされています)。

弱い者を見て条件反射的に体が動いてしまう、というのが実情ではないかと思います。こういうのはムスリムたちの多くが持つ「心のやさしさ」ではないか。

中東アラブの気候や風土も影響しているでしょう。砂漠のような厳しい自然環境の中では、助け合わなければ生きていけない。遊牧民サイーダがよく言っていました。「私が留守の間に誰かが水や食べ物を取っても、泥棒とは言わない。砂漠では水も食べ物も限られているから」。

この助け合う心が、イスラムの「弱者救済」の思想によって強まっていったのかもしれません。または「人間は弱い」というイスラムの考えから、他人へのやさしさが生まれたのかもしれない。

人にはそもそもそういう「やさしさ」が本能として備わっているのではないだろうか? それが忙しかったりすると、ついつい脇に追いやられてしまう。それが今もちゃんと機能しているのがイスラム圏ではないか。よく言えば、心の余裕があるということ。忙しく仕事をしているムスリムは多いけれど、仕事のために礼拝や家族を犠牲にするという考えはありません。

とにかく、イスラム圏の人は心がやさしく温かい。ぬるま湯につかったように、現地の人に甘えながら旅ができる。こんな場所は世界のどこにもありません。こうして私の足はまた自然とイスラム圏に向かうのです。

 

【「破婚」】

「寂しい熱帯魚」などを手がけた人気作詞家及川眠子さんが、18歳年下のトルコ人男性との結婚について綴った書。

離婚時に7000万円の借金を背負ったという、離婚にまつわる騒動も興味深いが、13年間生身のトルコ人男性と暮らしてきた体験は貴重で、トルコや中東の文化を知る上で有益な一冊。

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