ハディースとは?*預言者ムハンマドの言行録
ハディースとは?*イスラム第2の聖典
ハディースは、預言者ムハンマドの言行録。コーランに次ぐ第2の聖典です。ムハンマドが生前、他の信者と生活をともにしていた時、毎日起こるいろいろな問題に対処してきた。その言動の記録です。
この問題の時はどうするか?あの時はどうしたか?今から1400年前の生活の中で起きた問題をどう解決したか?それは彼と直接接した人々により語りつがれていき、この語り継がれた言行を記録したのがハディースです。
*ブハーリーとムスリムのハディース
イスラム世界各地に多数の人が伝える大量の伝承が残っており、それらを様々なハディース学者が長い年月にわたって集め、信憑性などを基準に編纂して本の形になったのがハディースです。特に信頼のおけるハディースはブハーリー(810~870)とムスリム(817年ごろ〜875年)という9世紀の2人の学者がそれぞれ編纂したもの。この2つは「真正集」などと呼ばれています。
スンナとは?
ハディースに集められた言行は「スンナ(慣行)」と言われ、今もムスリムが従うべき規範です。ムハンマドは神から啓示を受けた人、だからその言行は「神の意思に沿っている」と考えられるのです。
イスラム世界のムスリムたちは、自らの行動を正当化する時、「それはスンナ(預言者ムハンマドがなさっていたことだ)だから」と言うのが常です。
ハディースの内容
宗教上の作法、食事、服装、結婚、健康の管理など日常生活全般。トイレに入った時に何と言ったか、妻らが性交後にどうやって陰部を洗ったかということまで記されています。
たとえば、礼拝の時に床におでこをつける平伏礼「サジダ」の動作をする時、「スブハーナー・ラッビヤル・アアラー」(至高の御方、わが主を讃えます)と唱えますが、これはムハンマドが周囲の人たちに「サジダのときこう唱えなさい」と言われたことに由来しています。
ハディースの重要性
ハディースはコーランとともに、ムスリムが従うべき規範(シャリーア)の源。実際にはコーランよりハディースの方が重要な働きをしたと言われています。
イスラム男性にはヒゲを生やす人が多いのですが、ハディースに「ムハンマドがヒゲを生やしていた」とあるためです。男女ともに陰毛を剃りますが、これもムハンマドにそうすべきと書かれているから。イスラム圏に猫を可愛がる人が多いのも、ムハンマドが猫を愛したとハディースにあるからです。
コーランとハディースの関係
ハディースはコーランを補足する役割があります。コーランは概略的な記述が多く、それについての詳しい内容はハディースに書かれています。
たとえば礼拝。コーランには「礼拝をせよ」とだけしかありません。詳しい礼拝の方法や回数は、ハディースに書いてあります。喜捨についても、コーランには「貧しい人に喜捨せよ」とあるだけで、具体的な額などは書かれていない。そこでハディースを見ることになります。
つまりハディースは、「コーランの注釈書」。信者の行動規範のかなりの部分はハディースによっています。
ハディースは人間臭さがあふれている
ハディースはムハンマドの生々しい言行の記録であり、それはとても人間臭く、また預言者の人となりがよく現れてもいます。
『サルマーン(伝承者)はこう伝えている。彼は(異教徒から)「あなたたちの預言者は、排便関係のことまで全て教えるのですか」と質問 された。彼はこれに対し「その通りです。預言者は排便、または、排尿の時キブラ(メッカの方角)に面 すること、右手を使うこと、三箇以下の小石や動物の糞、または骨などを使って用便後の処理をすることなどを禁じております」と答えた』「ムスリムのハディース」から
「食事」については、ニンニクを食べることについての記載もあります。
『そして私達はその野菜(ニンニク)に群がった。 なぜならその時人々は腹ぺこだったからです。それで私達はそれを貪り食った次第です。その後私達はモスクに出向いた。だがアッラーの使徒(預言者)はその臭を嗅ぎつけてこう言った。
「このいまわしい植物を少しでも食べた者はモスクに決して近づいてはならない」そこで人々は「(ニンニクが)禁じられた、禁じられた」と口々に叫んだ。さてそのことが預言者の耳にまで届いたので彼はこういった。
「皆さん、アッラーが許したものを私があなた達に禁じる力はありません。 しかしそれは私がその臭いを嫌う植物です」
他人に迷惑をかけることなくニンニクや玉ネギやニラを たべること自体は勿論禁じられていない』
ハディースにはムハンマドの人間臭さがにじみ出ていて、読み物としても非常に面白いです。
1400年前に生きた預言者が、今でも現代の人々の敬愛を集めているのは、こういった実直で素朴な人柄も大きな理由でしょう。
日本語訳ハディース
イスラム学の大家である小杉泰氏によるハディースの編訳。上記ハディースは文庫で6冊という膨大な数がありますが、本書はその中からな精選したハディースを収録したもの。さらに詳細な注と、年譜や地図など資料もついています。
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