ハッジ25年待ちとスマホ断ち4ヶ月*インドネシア人の宗教実践
インドネシアでイード・アル=アドハーを一緒に過ごしたAさん夫婦を通じて、インドネシア人ムスリムの宗教的日常を、少しだけかいま見ることができました。インドネシアはイスラムの戒律がゆるいと自分なりに勝手にイメージしていましたが、そうとばかりも言えないようです。
ハッジは25年待ち
Aさん夫婦は昨年ハッジに行きました。その時は8年待ち。今なら25年待ちだそう。インドネシアではハッジに行きたい人が年々増えているからです。夫婦は子供2人をすでにハッジのウェイティングリストに入れたそう。実際サウジアラビアのメッカ・メディナに行ってみると、インドネシア人がとても多い。世界各国の割合では、最多がインドネシア人だと疑いなく思います。
ちなみに旅費は、40日間メッカとメディナに滞在し、55,000,000ルピア(約55万円)。これには飛行機代、滞在費、食費など全てが含まれています。日本からハッジに行くよりは安いですが、インドネシア人にとっては、かなり高額です。イードの日に説教を行った裕福なイマーム夫婦は、毎年ウムラに行っているそうです。
女性たちのイスラム勉強会
Aさんの奥様は週一回、地域の女性たちのターリームta’lim(イスラム勉強会)に参加しています。私が誘っていただいた日には、10人くらいの女性たちが参加していました。
勉強会はコーランとハディースについて書かれたイスラムのテキスト(アラビア語とインドネシア語の両方で書かれている)を読むというもの。講師の説明に、誰もが熱心にメモをとっています。
最も印象的だった話題は、「最後の審判の時に聞かれること」で、それは4つあるそうです。
・「何歳まで生きたのか?自分の人生をどんなことに使ってきたのか?」
・「自分の体をどのようなことに役立てたのか?」
・「自分の知識や能力をどんなことに使ってきたのか?」
・「富をどうやって稼いで、どう使ってきたのか?」
最後の質問はつまり、「働いて、そのお金を自分の楽しみだけに使ったのか?それとも別のこと(人々の役に立つため、イスラムの道のために)使ったのか?」ということ。この質問の答えによって、来世で楽園に行くか、地獄に行くかが決まります。
収入を自分の楽しみのためにばかり使うことを考えている私は、ここでしみじみと反省。室内では顔を出していた女性たちも、帰る時はほとんどの人がニカブで顔を隠していました。
イスラム説教団体「ジャマア・タブリー」Tablighi Jamaat
Aさん夫婦は国際的なイスラム説教団体「ジャマア・タブリーTablighi Jamaat」 のメンバーです。この団体の主目的は、世界のムスリムたちをより宗教的になるよう鼓舞したり、非ムスリムをイスラムへ導くこと。メンバーは世界で1億人とも2億人とも言われ、150ヵ国におよんでいます。パダンのメンバー数はAさんの推測では1万人くらいとのこと。
メンバーは自主的に世界各国へ出張し、布教活動を行います。赴任地では宗教を教えるというよりは、現地の人を自分たちのところに招き、お話をするそう。
このジャマアのミッションのため、Aさんは毎年2回世界各地に出かけています。1回は40日間、1回は4か月(!)。行き先は自分の希望を本部に伝え、本部がそれを元に判断するそう。
旅費は自分持ちです。ただアメリカに行った時は、現地の裕福な人が往復の航空券を出してくれたそう。もちろんこういうのは国によりけり。滞在はモスクや地元のメンバーの自宅(ですので、無料です)。食事も現地の人が用意してくれます。
4か月間のスマホ断ち
ジャマアのミッション中、メンバーはスマホを使ってはいけないというルールがあります。ネットでニュースを見たり、家族を含め外部の人と連絡を取ることも禁止。自分の任務に集中するためです。ミッションは複数で行き、リーダー格の人だけが、外部と連絡をとるためにスマホ使用を許されています。
家族とも連絡が取れないため、行く前に全てきちんと用意していきます。子供がいる場合は、子供の面倒をどうするか?などなど。
私が驚いていると、「スマホは使い方を間違えると大きな弊害をもたらすわ」と、ふだんはしきりにスマホをいじっている奥様。私もスマホは持たずに外出するタイプですが、4ヶ月もの間いっさい触れないなんて、、、、。
Aさんに「4ヶ月もニュースが見れなくて困らないですか?」と聞くと、「ニュースはすでに起こったことじゃないか」(そんなことを知ってどうする?)
「ニュースは嘘を言うし、西側の情報ばかり垂れ流している」。「この世のニュースを見ない代わりに、来世の情報をコーランで知ることができる」。
そんなAさんの前職はなんとバーテンダー。ある人との出会いを機にジャマアの活動にめざめ、すっかり敬虔なムスリムになったとか。
今では口を開けば出てくるのは「人生の本当の目的と幸福」。彼曰く「死んだ後に楽園に入ることこそが、人生の本当の目的です」。「アメリカには高級車を乗り回したり、プライベートジェットに乗ったりする裕福な人がたくさんいるが、幸福そうには見えない。昼間から酒を飲んでいるが、酒は一時的に気分がハイになるだけで、本当の幸せには繋がらない」。
そんなAさんの横で奥様は「夫は稼いだお金をすべてジャマアの活動に使ってしまうから、建設途中のこの家がなかなか完成しないのよ」と笑います。でも決して困っているようには見えないのは、彼の旅はアッラーの道のためであり、自分の楽しみのために行くわけではないからでしょう。
Aさんが旅をしている間、奥様はお留守番。子供2人はすでに親元を離れたために家に一人。食事も作らなくてよいため、とても気楽だそう。「亭主元気で留守がいい」とは、まさにこのことでしょうか。