現代パキスタンの恋愛結婚事情*結婚まで顔を見ないことも
パキスタン人の今時の恋愛・結婚はどんな感じなのか?若いご夫婦にインタビューをしました。
見合いが主流
パキスタンの結婚は今も親が決める見合いが主流です。結婚前に関係を持つカップルはまだまだ少数派。大都市の場合も同様です。
見合いは伝統的に「いとこ」との結婚が好まれてきましたが、最近はいとこ以外との見合いも増えています。理由は一族のネットワークを広ることができるから、だそう。なお見合い自体はイスラムの影響というよりは地域の慣習です。
なぜ見合いが多い?
見合い結婚が多い理由は、まず「素性がわかっている相手なら安心」というのがあります。
またパキスタンでは家庭内の年長者を敬う習慣が非常に強く、年長者が子どもの結婚にも大きな決定権を持っています。子にとっては、年長者が決めた相手と結婚することが敬意を示すことに。それによって年長者の名誉が保たれるのです。
恋愛結婚は親の尊厳を踏みにじる不遜行為で、社会的「恥」とされます。親を尊重するので、結婚しても親と同居が当たり前。これは長男だけでなく次男もです。
両親と長男・次男家族などが同居する。こういった形態は「合同家族」、「大家族制」などと呼ばれます。
女性が見合いを好むわけ
パキスタンでは、かなり高学歴な女性も見合いを希望します。それはなぜなのか?以下が私が聞いた理由です。
「親が決めてくれた相手と結婚した方が、あとあと家族親戚関係が良好に進む」
「恋愛結婚は限られた中でたまたま知り合った狭い選択肢の中から相手を見つけるが、見合いは多くの候補の中から、学歴や家柄などを考慮してベストな相手を見つけられる」
「恋愛の場合、男性が二股をかけていた、妻がいた、男性が心変わりして彼女のもとを去ってしまう、などといったことも起こり得る。見合いなら、こういうこともないし、相手の家族や家柄がよくわかっていて安心できる」
「経験や知識がある両親が決める方が、自分で選ぶより良い相手が見つかる」
「(ある父親の意見)「若い人同士は相手の容姿に目が向きがちだが、そういう魅力は2~3年だけのもの。両親はもっと長いスパンのことを考えている」。
増えつつある「半」見合い
最近は都市部を中心に恋愛結婚が増えています。しかしこれは日本でいう「恋愛結婚」とは少し違います。
2人が好意をもったら互いの両親に相手を紹介し、見合いの形に持っていくのです。そのため「半見合い」といわれます。
親の反対を押し切って結婚する場合だけが「恋愛結婚」とされます。
南部の大都市カラチの場合、私が聞いたケースでは約60%が「完全な見合い」、残りが「半見合い」結婚です。
見合い結婚実例
では実際、パキスタンで主流の見合い結婚はどんなふうに話が進むのか?サナさん(妻)とイムランさん(夫)のケースをご紹介します
結婚相談所と両家の顔合わせ
2人は結婚斡旋所を通じて知り合いました。イムランさんの母親が結婚相談所に出向き、花嫁候補の紹介をお願いしました。
そこで3~4人の女性を紹介され、彼らの家に会いに行ったものの、学歴や家柄の点で気に入った女性はいなかったそう。
そして最後に会ったのがサナさん。大学院で英語学を学び、銀行に勤める女性です。
イムランさんのお母さんは、長女を連れてサナさんの家を訪れましたた。(イムランさんは同行していません)
そしてサナさんのお母さんから娘の教育レベル、両親の仕事、兄弟仕事のことなどを聞き出します。(パキスタンでは、結婚相手としての女性の「学歴」が重視されているのです。)
満足したお母さんは、自分の家にサナさんの家族をご招待。1週間後、サナさんのご両親、おじさんがイムランさんの家へ(サナさん本人は同行していません)。
ここでの話し合いは、主にイムランさんの仕事のこと、給料の額などです。
サナさんの両親とおじさんは帰宅後、この日の会合について話し合いました。相手の家族の印象、彼がサナさんに合っているか、家族同士の相性はどうか・・・。これはサナさん抜きでです。
この結果、イムランさんが理想的な結婚相手ということになったのです。
新郎の信用調査
サナさんのお父さんが、イムランさんの身元調査を開始。イムランさんが働くオフィス(銀行)に出向き、確かにそこで働いていることを確認。職場の人にも、彼の人柄を聞き出します。娘の人生がかかっているので、父親も真剣です。
こういった信用調査は、パキスタンで一般的に行われているそうです。その結果、お父さんは満足。
両家の交流と結婚まで
この後、互いの家族が訪ねあう交流が重ねられ、7回目くらいに婚約。驚くのは、この婚約の日まで結婚する本人同士はいっさい会っていないこと。
婚約の時に初めて会いましたが、それも数秒程度。サナさんが居間にお茶を出すために入ってきて、出したらすぐに退出してしまい、会話もしていません。互いの写真も、この時まで見ていませんでした。
もし相手が好みではなかったら?とサナさんに聞くと、「容姿はあまり関係ないわ。ハンサムでも1~2日で飽きるもの。人柄がそれ以上に大事」
はじめて会話をしたのは、ニカ(結婚契約式)のとき。これはサナさんの家で行いました。この時の会話もあいさつ程度。
日本人なら、「相手のことをもっと知る必要があるのではないか?」と思いますよね。
これについてはサナさん:
「結婚までに彼の家族が家に何度か来てよく知っていたし、思いやりのある温かい人たちだなと思ったわ。私の家族と似ている思った。話し方とか服装とか色んなことにも好感が持てた。私はこの家族と仲良くやっていける、自分をそれほど変えなくても幸せに暮らしていけそうだなって思ったの」
と、彼女の評価はあくまで「彼の家族」について。夫との相性も大事ですが、相手の家族とうまくやっていけるかどうかがパキスタンの結婚では大事です。
肝心のムハンマドさんのことについては?
「両親は彼のこと、性格が良いくらいしか言っていなかったわ。でも両親が彼のことすごく気に入ってたし、それで私には十分だったわ。両親を信用してるし、彼らの判断なら間違いないもの」
結婚前にほとんど会っていなかった2人ですが、今では2人のお子さんに恵まれ、幸せに暮らしています。
もちろん婚約までに何度か会う場合もあるし、2人だけでデートするカップルもいます。とはいえ、基本は両親の選択を信頼して、それに従うことなのです。
見合い結婚は遅れている?
ここまで読んで、「見合いなんて古くさい」「婚約まで顔を見ないなんて、信じられない」と思われるかもしれませんね。
一方でただひたすら両親の選択を信頼して結婚し、その後淡々と幸せを築いているサナさんを見ていると、私は「こういう結婚も悪くないな」と思うのです。
大恋愛で「この人しかいない!」と思って結婚しても、後々相手のいたらない点が見えてきたり、ということはよくあるもの。
結婚前に相手のことを知らなければ、「ガッカリ」はありません。毎日が発見の連続です。
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