カラチでラマダン*パキスタンの「神の食卓」
今年のラマダン月は(〜4/10)は、パキスタン南部の大都市カラチで過ごしました。カラチでのラマダンのようすをご紹介します。
神の食卓
ラマダン月のあいだ、ムスリムたちは日の出から日の入りまで飲食をひかえます。そして日没後に断食明けの食事(イフタール)を食べます。
このイフタールを無料で大勢の人に提供する場がイスラム圏各地にあり、「神の食卓」と呼ばれます。この神の食卓が特に盛んなのがパキスタン、とりわけ南部の大都市カラチです。
神の食卓を提供するのは主に裕福なビジネスマンや地元のNGO。大都市カラチにはリッチなビジネスマンも多く、NGOの食事の財源は、そういった人たちからの寄付でまかなわれています。
こうして日没時には、大勢の人があちこちで一緒に食事をする光景が、カラチをはじめパキスタン全土で見られます。食卓はラマダン月の30日間、毎日休まず提供される。
食卓で食べるのは貧しい人のほか、仕事の都合でイフタールの時間までに家に帰れない、家族と離れて暮らしているなどの事情でイフタールを家族とともに食べられない人なども。
食卓には女性のスペースも用意されています。パキスタンの場合は男女別。エジプトの神の食卓は男女一緒です。こういったお国柄が出るのも面白いですね。
施しをして天国へ
なぜ無料で食事を提供するのか?善行をたくさん行って来世で天国へ行くためです。良いことをすれば天国へ行けるというのがイスラムの教え。
とりわけイスラムでは「弱者・貧者救済」を重視していて、誰でも余裕がある人は貧しい人に施しをする義務がある(*イスラムの喜捨と貧者救済)。施しという善行を行えば、それだけ来世で天国へ行けるチャンスが増えます。
またラマダン月に行った善行はポイントが倍加されるとコーランにあります。だから余裕のある人は、ラマダン月にこぞって無料で食事を提供するのです。
この神の食卓は、パキスタンでは「人に貢献する食卓」、「神様を喜ばせる食卓」などとも呼ばれています。無料で食事を提供すれば神様が喜んでくれて、天国へ誘ってくれるというわけです。
食卓に招かれるのは男女、宗教や人種、男女の別をといません。断食明けの食事は大勢の人ととるのが宗教の教えです。
カラチは以前パキスタンの首都だったこともあり、イスラムのシーア派、キリスト教徒、ヒンドゥー教徒など多様な宗教の信者が暮らしています。
裕福な人の義務
カラチ市内で輸送業を営む男性は、カラチの駅構内で30年間、毎年欠かさず神の食卓を開いています。
同じくビジネスマンである友人たちとお金を出し合い、ビジネスで得た収入を少しずつ、この食卓のために貯めているそう。(上の写真がその食事)
なぜ鉄道駅でやるのか?
「駅には旅をしてきて疲れている人がたくさんいます。また駅の近くに病院もあり、貧しい人が通っています。そういう人が来やすい場所でやりたかったのです」。
「イスラムでは、裕福な人は貧しい人に与えるのが最大の義務です。たまたま自分が裕福家に生まれた、ビジネスで成功したのは、神様のおかげです。だから貧しい人に分け与えることで、神様に富をお返しする。そうすれば神様が喜んでくれ、死んでから自分が天国へ行けるチャンスが増えます」。
「富は人のために使ってこそ、意味があります。自分のふところだけにため込んでいても、腐ってしまう。人のために使うからこそ生かされるのです」。
無力の食卓以外にも、断食明けの時間に大勢の人が、町のあちこちで無料で食べ物や飲み物を配っているという光景も見られます。
ラマダン以外でも、多くのレストランで3食無料で貧しい人に食事を提供しています。だから貧しい人は最低限食べるのには困らない。
いわばパキスタンは施し・炊き出し文化が根付いている国なのです。日本の被災地などで、よくパキスタン人が炊き出しを行っていますが、それはごく自然なことなんですね。