コーランとは?*日本人が知らない真実
コーランとは何か?何が書かれているのか?コーランを詠むには?などについて、わかりやすくご紹介します。
コーランとは?イスラムの聖典
コーランは神が預言者ムハンマドを通して人びとに伝えた言葉(啓示)をまとめたもので、アラビア語で「クルアーン」といいます。全部で114章あり、全てアラビア語で書かれ、神が預言者に語りかけるスタイルとなっています。
コーランの大切な点
・コーラン=神の言葉
コーランは神の言葉だけを集めたもので、人間が書いた文章は入っていません。これが他の聖典と異なる非常に重要な点です。神の言葉そのものであるため非常に神聖なものとされ、粗末に扱ったり燃やすなどは厳禁。神を粗末に扱うのと同じ意味になります。パキスタンなどいくつかの国では、コーランを汚したりすることは法律で禁止されています。
・書き換えは不可
神の言葉であるコーランは、人が書き換えることはできません。
・翻訳はできない
アラビア語は聖なる言葉とされ、翻訳は許されません。アラビア語を母国語としない人も、アラビア語のままコーランを読みますます。翻訳本は厳密には「コーラン解説書」であり、コーランではないとされます。
・声に出して読むもの
コーランのアラビア語「クルアーン」の意味は「朗誦されるもの(口に出して唱えるもの)」で、本来は声に出して読むのが正しいとされます。宗教音楽も聖画もないイスラムでは、コーラン読誦が宗教芸術にまで高められ、専門の読誦者もいます。
コーランには何が書かれている?
次の①〜④のことが書かれています。
①神のこと
神は唯一、全知全能、万物を創造し支配している‥‥一神教の基本が繰り返し強調されています。(*イスラムの神アッラー*唯一神・全知全能・全てのものの創造神)
②現世の物語
神の天地創造や最初の人間アダムとイブの創造、ノアやアブラハム、ヨセフなどの預言者・使徒たちの物語が描かれています。
③来世の出来事<終末・最後の審判・天国と地獄>
現世はやがて終末の日が訪れ、神による最後の審判を経て、信者は来世で天国か地獄へ行くことが書かれています。(*イスラムの天国(楽園)と地獄はどんな場所?)
④人間への命令
礼拝や断食など宗教儀礼上の命令に加え、飲食や結婚・離婚、人間関係、商売など生活全般にわたる命令が書かれています。イスラムが生活宗教と言われるゆえんです。これらを守ることで、来世で天国へ行けるとされています。(*生活宗教と聖俗不分 *<イスラムはどんな宗教?>)
ムスリムにとってのコーラン
・とても神聖なもの
神の言葉そのものであり非常に神聖な書物であるコーランを、ムスリムたちはとても大切に扱います。地べたにじかに置いたり、他のものを上に載せたりは絶対にしません。コーランに触れる時、ウドーと呼ばれる浄めを行う人もいます。
・すべての真理が示されている
コーランの中には、すべての真理(決して変わらない、永遠に正しい事柄)が示されていると信じています。
・生きるガイドブック
コーランには社会のルールや日常生活で守るべきこと、いかに生きるべきか、などが記されています。いわば人生のガイドブック。信徒は日常生活の中で迷ったり困難に直面したりした時に、コーランを読みます。(*生活宗教と聖俗不分 *<イスラムはどんな宗教?>)
・現代も読み継がれる
ムスリムの多くは、日々コーランを耳にしたり、その一部を朗誦したり、その言葉や表現について考えたりしながら暮らしています。コーランは現代人が読んでも意義を持ちうるものです。
・コーランを丸暗記する人もいる
コーラン全文を丸暗記している人は世界中にたくさんいて、「ハーフィズ」と呼ばれ、非常に尊敬されています。
コーランの成り立ち
西暦610年メッカの洞窟で瞑想をしていた預言者ムハンマドに、天使ジブリールを通じて最初の啓示が下されます。そして以後632年までの23年間、断続的に少しずつ啓示が下されました。
啓示はムハンマドの周囲の教友たちによって暗記され、人々はそれを忘れないよう、木片やラクダの骨、ナツメヤシの葉などに書き留めておきました。ムハンマドの生前は、コーランは一冊の書物にまとまってはいませんでした。
彼の死後、周囲の勢力と戦争が行われる中で、コーランの内容を伝えられていた人たちが次々に戦死し、コーランが正しく伝えられなくなる恐れが出てきたため、書物としてまとめようという動きが生まれた。
1冊の本になったのは、ムハンマドの死後20年を経た650年ごろ、第3代カリフ・ウスマーンの時代です。(カリフとは預言者の後継者。共同体を治めた人)。ウスマーンはムハンマドの布教の初期に入信し、啓示が降るのを目の当たりにしてきた人であり、神の啓示がそのままコーランに残された可能性が高いと言われています。
それが以後1400年間、改竄(かいざん)されることなく今に伝えられています。
なぜ23年間にわたって啓示されたのか?はコーランに示されています。
『また信仰しない者は、「クルアーンは何故一度に全巻が下されないのですか。」という。こうするのは、われ(神)があなたの心を堅固にするため,よく整えて順序よく復誦させるためである。』(25:32)
コーランには同じ内容が繰り返し様々な箇所で述べられていますが、大事なメッセージだからこそ、何度も時を変えて神が人間に伝えたものと思われます。
コーランの構成
・全部で114章
コーランは全部で114章あり、各章は節に分けられます。3節だけの短い章もあれば、200節以上の長い章もあります。全体で6239節。約7万8千語。全体の長さは新約聖書の5分の4くらいです。
・筋道だったストーリーはない
コーランには一貫した内容が述べられているわけではありません。預言者の物語が書いてあると思えば、いきなり天国と地獄の描写が出てきたり、食べてはいけないものの話になったりと、次々と内容が変わります。同じ章の中にも異なる時期の啓示・異なる内容の啓示が含まれています。よってテーマ別に書かれていないので、目に止まった節から読むことができます。どの節にも、学ぶべき教訓が書かれているからです。
・章のタイトルと内容が一致するわけではない
各章にはタイトルがありますが、タイトルと章の内容が必ずしも一致するわけではありません。一方でタイトルには、章中の特徴的な内容を示すものも多く付いています。たとえば「婦人の章」には女性に関する内容が多く、「巡礼の章」には巡礼に関する内容が多く含まれます。ただし女性の事だけ、巡礼の事だけ書かれているわけではありません。
・神が伝えた順ではない
各章の順番は、啓示が下された順ではありません。たとえば一番最初に下ったとされる「よめ」に始まる啓示は、96番目の章に入っています。しかし一般的に早い時期の啓示は後の方に、遅い時期のものほど前の方に置かれています。この順番は、ムハンマドが生前に指示したと言われています。
・特に大切な章=第1章(ファタハ章)・112章
第1章(ファタハ章)には、コーランの大切な内容が全て含まれていると言われます。(「神アッラーは全世界の主であり、世界の終わりには「最後の審判」を行う主宰者」と書かれている)。この章を唱えることはコーラン全体の朗読に匹敵すると言われ、一日5回の礼拝時に語らず誦唱され、また結婚契約の成立時、商取引の契約時にも称えます。
112章はイスラムの最も本源的な趣旨を宣言するもので、第1章とともにムスリムに広く愛読されています。
・すべての章は「タスミ」で始まる
全ての章は「ビスミッ・ラーヒル・ラフマーニッ・ラヒーム(慈悲深く慈悲あつき神の名において)」という言葉(タスミ)で始まっています。例外は第9章のみです。
メッカ啓示とメディナ啓示
コーランの啓示は23年間少しずつ断片的に下ったもので、それらはヒジュラ(622年)を契機に「前期10年間のメッカ啓示」、「後期10年間のメディナ啓示」に分けられます。
<メッカ啓示の特徴>
この時代はムハンマドがメッカにて悪戦苦闘していた時代で、啓示は現世の虚しさ、はかなさなどが述べられ、全体的に暗く険しい雰囲気をかもしています。啓示内容は唯一神と預言者の信仰、多神教の否定、終末と来世に関する警告など宗教的なものが多く、章全体も各節も一般に短い。神に対する「畏れ」が信仰とほぼ同義語で使われています。
『この世の生活はただ束の間の楽しみにすぎぬ。来世こそは不滅の宿。』(40:42)
<メディナ啓示の特徴>
メディナ時代はムハンマドが共同体のリーダーとして活躍した時で、啓示は共同体の運営に必要な婚姻、相続、売買などの規律が多く、散文的で平易。現世を否定したり来世のみを目指したりすることはなく、コーランに示された来世のイメージを念頭に置きつつ、神の命じるままに現世をより良いものにしていこうという姿勢をとります。神の限りない慈悲慈愛に対して、深い感謝の念を抱く「感謝」が信仰の同義語となっています。
全体の配列はおおむね、前期メッカ啓示が後の方に、後期メディナ啓示が前の方になっています。メディナ啓示は長いものが多く、メッカ啓示は短いものが多い。よって前方の章は長く、後方は短い啓示が多い傾向にあり、子どもがコーランを覚える時は、最後の章から初めて徐々にさかのぼるのが普通です。
コーランをハディースが補足
コーランの文章は概略的なものが多く、ハディース(ムハンマドの言行録)がその内容を補足します。たとえばコーランには「礼拝せよ」と書いてあります。しかし具体的な方法はなく、それはハディースに書かれています。
ハディースは神の言葉を集めたものではないので「啓典」ではありませんが、信仰の源泉になるので「聖典」とされています。(*:ハディース とは何か?)
コーラン解釈はさまざま
コーランは書き換えはできませんが、解釈は時代、地域、学者によって様々になされてきました。神の意志を正確に読み取るのは簡単ではないからです。
そのコーラン・ハディース解釈をもとに、神の命令として学者たちが導き出したのが「シャリーア(イスラム法」)であり、信者の大切な義務としてリストアップしたのが「六信五行」(6つの信じるもの・5つの行うこと/ 礼拝や断食など)です。
コーランと他の啓典の関係
イスラムではコーランに加え、次のものも啓典とされています。(啓典とは神から預言者を通じて人々に下された言葉を書き留めたもの。)
・紀元前1200年ころユダヤ教の預言者モーセに下された五書(創世記、出エジプト記、レビ記、民族記、申名記)
・紀元前900年ごろのダーウード(ダビデ)が授かった「詩篇」
・紀元前後にキリスト教の預言者イエスが授かった「福音書」
これらの啓典は、神のもとにある原本がもとになっていると信じられています。つまり神は原本に基づき、それぞれの時代、それぞれの預言者を通じて啓示を下したとされます。
しかしそれらは後の人に書き換えられたり、破棄されたりしてしまい、神が啓示したままの形では現存していない。最後の啓典コーランだけが神の言葉を正しく伝えているとします。よってイスラムこそが真の宗教で、コーランは以前の啓典を「破棄するもの」と位置付けています。
コーラン日本語訳おすすめ
日本語訳のコーラン(翻訳書)には、以下のものがあります。
『コーラン(上)(中)(下)』
世界的なイスラム研究者である井筒俊彦氏によるもの。1957年に出版され、今でも版を重ねているロングセラー。文庫本サイズで携帯もしやすい。ただ上・中・下の3冊に分かれているため、やや使いづらさはあります。しかし井筒氏の訳はとても味があり、読み物としてもおすすめです。
『コーラン 〈1〉〈2〉』
藤本勝次・伴康哉・池田修氏の3人の共訳。3者ともアラビア語の高度な知識のある方。訳は非常に読みやすく、上記井筒氏の本より新しい訳を求める方におすすめです。
『クルアーン やさしい和訳』
1冊にまとめられており、単行本とほぼ同じサイズで利便性が高い。訳もわかりやすいです。
『日亜対訳 クルアーン』
1冊にまとめられているもの。中田考氏(イスラム法学者)の訳。ただアラビア語原文を含んでいるために厚さ6cmほどあり、ハードカバーのため重いのが難点。コーラン研究を志す方やアラビア語の原文も読みたい方向けです。
コーランを読むための入門書
コーランはいきなり読み始めても挫折します。ストーリーがあるわけではなく、内容もやや支離滅裂だからです。まずは「コーランを読むための手引書」を読み、予備知識を得てから読み始めるのが得策です。おすすめは下記です。
『イスラームとコーラン』
「コーランとは何か」「どのような内容が書かれているのか」といった初歩的なことを知るために、この1冊でほぼ足りるでしょう。コーランを構成する主要な要素である「神」「最後の審判」「信者が日々行うべきこと」などがわかりやすく記載されています。薄い文庫本で価格も手頃です。
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