2024-07-31

シベルート島メンタワイ族と暮らした1週間①*インスタント麺の後悔

シベルート島メンタワイ族 siberut island mentawai

インドネシア・シベルート島に暮らすメンタワイ族の家に1週間滞在しました。メンタワイ族は島のジャングルの奥地に暮らす原住民で、男性は木の皮でつくるふんどし一枚で暮らしています。

シベルート島とメンタワイ族


シベルート島はスマトラ島の西にあるメンタワイ諸島の1つ。島へはスマトラ島西部の町パダンからフェリーや高速船が出ています。(*Mentawai Fast Ferry)

島には約2万人のメンタワイ族が暮らしていて、そのうち今もジャングルで伝統的な暮らしを営むのは600人ほど。他は政府が設けた村に暮らしています。

siberut-mentawai シベルート島メンタワイ族

ウマ」は巨大な高床式住居。軒下をブタやニワトリなどの家畜が走り回る。

島はうっそうとした原生林でおおおわれ、丘の間に川が流れる広い谷間があり、この川沿いにメンタワイ族の伝統的な住まい「ウマ」が点在しています。

私が滞在したのは、16人が暮らすウマ。お母さんと長男アマン・マジャとその家族、次男アマン・サリと家族、姉サラと子供一人、姉リリが住んでいます。

<メンタワイ族の名前>
結婚して最初の子どもが生まれると、子どもの名前の前に父はアマン、母はバイをつける。子供の名前がAなら「アマンA」、Bなら「アマンB」となる。家族の誰かが死ぬと、元の名前に戻る。

メンタワイ族に会う方法

siberut-mentawai シベルート島メンタワイ族の女性

長男アマン・マジャ。母親に食べさせる鳥をジャングルでとってきたところ。メンタワイ族は体に独特の入れ墨を施している。

メンタワイ族に会うのは比較的簡単です。現在は複数の旅行会社がツアーを行っており、島には英語堪能なメンタワイ族ガイドも多数います。一人で会いに行く場合は、ツアー会社にアレンジを頼むか、ガイドを雇うか。ガイドの多くはSNSアカウントを持っていて、連絡すればフェリー到着に合わせて港で待っていてくれます。

私の場合、問題は日数でした。滞在希望は1週間。一人では当然、割高になります。あるツアー会社に聞いたところ、3泊4日で約15万円。ガイドに頼めば若干安いですが、1週間で10万円を超えます。

料金は「オールインクルーシブ」で提示されるのが普通です。これにはウマまでの交通費(車やカヌー)、滞在費、食費、ガイドやポーターの料金、アクティビティ見学料、家族へのお土産の費用などが含まれます。

私としては料金の内訳を教えてもらい、少しでも削れる部分は削りたいと思ったものの、なかなかクリアにしてもらえません。

アクティビティの内容は、シャーマン(祈祷師)の儀礼、ふんどし作り、女性の漁、狩のための毒矢作りなどで、それらがごく普通に日常的な流れで行われるのなら、ぜひ見てみたいのですが、他人に見せるためのSHOWには興味がありません。

もちろん、わざわざ島に行くのですから、行ったからにはそれらを実際に自分の目で見る価値は十分にあるでしょう。

ただそれより私が興味あるのは、ふだんの日常生活なのでした。何を食べ、何を飲み、どんなふうに寝ているか?排泄は?‥。

また調べていくうちにわかるのですが、ガイドの多くが連れていくのは、観光業のメンタワイ族です。彼らが人が住まなくなったウマに観光客がいる時だけ滞在し、各種アクティビティを行い、観光客が帰れば自分の家に帰る。家は政府がつくった村の家です。そんな「まやかし」の生活を見せられても‥。

ガイドありorなし?

sibet-mentawai-uma シベルート島メンタワイ族住居ウマ

メンタワイ族の伝統的住居ウマ。外に張り出した縁側で食器などを洗う。

複数のツアー会社やガイドとやりとりを続けましたが、料金や滞在先の点で、なかなか(これ)という決め手が見つかりませんでした。そんな中、ようやくメンタワイ族の家族と長年暮らし、その家族を紹介してくれるという方を見つけました。家族は今もジャングルの中で伝統的な暮らしを続けているという。

彼らのウマに行くには、家族に迎えにきてもらいます。家族は少しの英語なら話せるので、意思の疎通はなんとかなるとのこと。滞在中はガイドはなしです。

言葉がわからない異文化の人たちの中で暮らす場合に、ガイドがいた方がいいのは決まっています。ガイドなしなら費用は安くなりますが、ガイドがいれば家族の会話や行動を逐次通訳してくれますから、メンタワイ族の暮らしや文化をより深く理解できるでしょう。(ガイドの質にもよりますが)。

一方で、見知らぬ男性がずっと自分のそばで通訳し続けるというのも、なんだかうっとうしい気もしました。いっそガイドがいない方が気楽かも‥。

シベルート島メンタワイ族 siberut-mentawai-family

アマン・サリ(右)と兄アマン・マジャの妻バイ・マジャ。ジャングルに住むメンタワイ族の男性は髪を長く伸ばし、普段は後ろで束ねている。

しばし悩んだのち、結局この家族を紹介してもらうことにしました。家族たちと「直に」接するのも、いいかもと思ったのです。ガイドと一緒だと、私の立ち位置はなんとなく「お客様」か「観光客」のような感じです。でも一人で家族の中に飛び込めば、突然訪ねてきた知人か親戚、みたいに接してもらえるのではないか‥という淡い期待もありました。もちろん実際には、なかなかそううまくはいかないのですが。

もう1つ決め手は、明瞭な料金体系でした。紹介者が一日あたりの滞在費や食費、交通費などを明瞭に提示してくれました。(具体的な金額は下記)。各種アクティビティの料金もですが、見学は強制ではない。これなら1週間でも、それほど高額にならずにすみそう。

紹介者が住むのはバリ島。私が訪れる日時を家族にSNSで連絡してくれるそう。今やジャングルの民もスマホを持っているのです。

マラリア対策

sibet-mentawai-uma シベルート島メンタワイ族の住居ウマ

メンタワイ族の住居ウマの中。家族は皆、蚊帳の中で寝ている。

他の心配はマラリアでした。ジャングルの中だからマラリア蚊がいるのでは?これについては、あるという情報とないという情報があり、あるとしたらどうしよう‥?

世界中の家を取材しているカメラマンの知人に聞いたところ、以下のような返事が。

「マラリアは何種類かありますが、怖いのは「熱帯マラリア」です。発症して24時間以内に治療しなければ、重症化し、しばしば死に至ります。毛細血管が多い脳がやられるので「脳性マラリア」とも言われます。旅行中に罹患して死んでしまった若者も数人知っています。アフリカを旅行していた夫婦が熱帯マラリア潜伏のままボリビアのラパスに行き、そこで発症し2人ともなくなりました。ラパスは標高3800mの高地なので病院にマラリアを知る医師が居なかった。一人は病院で、奥さんはホテルのトイレに座ったまま絶命でした」。

これはたいへん!予防薬もあるものの、副作用として悪夢を見る、精神錯乱するなどがあるそう。服用して錯乱し、ホテルの3階から飛び降りて全身打撲で亡くなるような人もいたとか。

一番大事なのは蚊にさされないことです。マラリア蚊は黒っぽいものによってくる、また特に下半身が狙われやすいそうなので、さっそく白っぽいズボンと白の靴下を購入し、ジャングル行きに備えました。幸い蚊帳はウマにありました。

米やタバコの買い出し

siberut-mentawai シベルート島メンタワイ族

ウマにいる時のアマン・サリ。ムアラ・シベルートでは服を着ていた。

シベルート島へは、パダンから船で数時間。島に到着後、まずは島でもっとも大きな町(村?)ムアラ・シベルートに一泊しました。ジャングルに行く前に村のようすを見てみたかったからです。

翌朝、家族の次男アマン・サリと宿で落ち合いました。まずは一緒に食料などの買い物。私が滞在中に家族と一緒に食べるお米、砂糖やコーヒー、お茶などです。

メンタワイ族の普段の主食はサゴ(サゴヤシの樹皮から作る小麦粉を料理したもの)やタロ(里芋のようなイモ)などですが、メンタワイの人たちは米も大好き。外国人としては、そういったものを用意していくのがエチケットなのです。

アマン・サリが必要なものを買い、お金は私が払います。またギフトとして、彼らが大好きなタバコ1カートンも忘れずに。

インスタント麺の後悔

siberut-mentawai シベルート島メンタワイ族の女性

サゴを焼くバイ・サリ。いつもタバコをくわえている。

この買い出しについては、ちょっとした反省点がありました。必要なものを買った後、最後にアマン・サリが「ヌードル(インスタント麺)はいらない?」と聞いてきたのです。(インスタント麺なんて、ジャングルに行ってまで食べたくない!)そう思った私は、とっさに断ってしまったのです。サゴやタロを食べ、彼らの食生活にどっぷりひたって生活したかったから。

しかし、わざわざ聞いてきたということは、彼が「これも買った方がいいかな」と思ったからかもしれません。ふだんジャングルで質素な食生活を送る彼らにとって、町から外国人が来るのはヌードルを食べる良いチャンス。だったのかも。

現に後で彼の妻バイ・サリに、「あなた、米しか持ってこないから、ご飯しか出せないわよ。ヌードルが食べたければ、近くの村で買ってきなさい」と言われたのです。対して私は「ヌードルは食べたくない、サゴがあれば十分」と答えて、その場は一件落着したように見えたのですが。

後で思えば、彼女は暗に「町から来るのに、ヌードルも買ってこないんだから。気が利かないわね。私はヌードルが食べたいのに」と思っていたのかもしれない。そしてその2、3日後、どこで誰が調達したのか、ヌードルが食事に出て、皆が美味しそうに食べていたのです。

ジャングルの中を歩いて

買い出し後、いよいよジャングルの中へ。車で行ける場所まで行き、そこからはジャングルのぬかるみ道を歩くこと2時間。本当は車を降りた後、お兄さんが所有するカヌーに乗る予定だったのですが、ガソリンがなくなってしまったとのことで、その分の道のりを歩きました。2日前に大雨がふったおかげで、ぬかるみ度はかなりひどく、アマン・サりにたびたび手を貸してもらいながら、どうにかこうにかウマに辿り着きました。

シベルート島メンタワイ族 Siberut-Mentawai

果たして家族にどのように迎えられるのだろう?と心配でしたが、外国人の私を見ても、家族の皆さんきわめてあっさりしていて、まるで知人か親戚が来たかのように、あっけらかんとしていました。

というのも長年たくさんの外国人がここで暮らしてきたのです。フランスの大学の先生が3年間、マレーシア人のマスコミ関係者10人が1年間、アメリカ人が2年間、スペイン人20人が1年間‥。私のようなツーリストも月に1、2回はやってくる。また私の滞在中、「カンポンおじさん・おばさん」と私が呼ぶメンタワイ族の知人も滞在していました。

いわばよそ者が家にいることが日常なのです。こういう暮らしは疲れないのか?と思いましたが、ウマは巨大な開かれた住居だから、よそ者を限りなく飲み込む包容力がある、そんな印象です。子ども達も変に外国人慣れしているわけでもなく、かといってはずかしがるわけでもなく、ごく自然に接してくれました。

1週間の滞在費用

(単位はインドネシルピア)

・フェリー代(パダン⇆シベルート島)     700,000
・家族が迎えに来る交通費                                  300,000
・カヌー片道(ウマから最寄りの村まで) 400,000
・車往復(ムアラ・シベルート⇆最寄りの村) 1,200,000
・食事                  700,000(1日あたり100,000✖️7日)
・ウマ滞在費        350,000 (1日あたり50,000✖️7日)
・食事の買い出し(タバコ代を含む) 500,000
・チップ     700,000

合計 3,700,000(約35,890円)

シベルート島のメンタワイ族と暮らした1週間②*空腹が恋しい。

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