シベルート島メンタワイ族と暮らした1週間②*空腹が恋しい。
インドネシア・シベルート島のメンタワイ族が暮らすジャングルに来て2日目。彼らの住居「ウマ」で初めての朝を迎えました。ウマとはメンタワイ族が暮らす伝統的な高床式住居です。
(1日目:シベルート島メンタワイ族と暮らした1週間①*インスタント麺の後悔)。
ウマでの寝心地は意外に悪くありませんでした。横になってしばらくは、人が歩くたびに床がゆれ、犬が突然走り出す音などでなかなか寝付けませんでしたが、気づいたら爆睡。私は他人のいびきがけっこう気になる方ですが、ジャングルの中では、日がくれるとたちまち虫たちの大合唱となり、人間のいびきなどかき消されてしまいます。
夜中にトイレに行くこともありませんでした。トイレは外。真っ暗な中で靴を履き、歩いていかなければなりません。夜中に一度目は覚めましたが、がまんしたのです。
5時半。まだ暗い中、奥の炉で妻たちがサゴ(メンタワイ族の主食)を焼いています。アマン・マジャの15歳の息子が起きて、お茶を入れている。ずいぶん早いなと思ったら、これから40分かけて村の学校へ行くそう。
6時。ようやく外が明るくなってきて、けたたましくニワトリが鳴き、虫たちの大合唱に変わって、さまざまな鳥たちの鳴き声が響き渡ります。この頃になると、小さな子供たちも起きてきて、それぞれ歯ブラシを手に川へ向かいます。アマン・サリの長女サリが、使ったコップやお皿をおけに集め、川に持って行って洗います。
アマン・サリも起きてきて、髪をほどいた姿で川へ顔を洗いに行く(一番上の写真)。長く伸ばした髪を手で束ねたり、ほどいたり。その姿がなかなかなまめかしくて、後ろ姿をじっと見つめてしまいました。
朝8時。ゆでたバナナ
8時にゆでたバナナをいただきました。ここではバナナは生で食べることはほとんどなく、ゆでるか、すりおろしてまるめてココナツミルクで煮込んだりして食べます。生で食べてもあまり美味しくはないのです。
このバナナが朝食かな?と思ったら、しばらくして蒸した牛肉とご飯が出てきました。これが本来の朝食?しまった、バナナを食べすぎてしまった‥。
その後も2、3日間、食事のたびに牛肉が出ました。肉はイスラムの犠牲祭イード・アル=アドハーの日にモスクから配られたものだそう。実は家族はムスリム!だったのです(もちろん戸籍上だけ)。余った肉は竹筒に入れて保存し、食べるたびに炉で温めなおします。
朝ごはん?の後は、家族たちは玄関先に腰掛けて雑談。この時間がとても長いです。
ジャングルで木を切る
しばしの雑談後、家族そろってジャングルの中へ。木を切り出します。2日前にどしゃぶりの雨が降ったため、家の周囲の地面のぬかるみがひどくなってしまったので、歩きやすいよう地面に丸太を渡すのです。静かなジャングルにチェーンソーの音が響き渡る。
ジャングルならどこでも木を切って良いと思っていましたが、それぞれの土地の所有者が決まっているとのこと。ここはアマン・サリのおじいさんが1,000,000㎢の土地を、ブタ一頭とニワトリ何匹かで手に入れたものだそうです。
材木は川の流れに乗せて運びます。お前も手伝えと言われて私も引っ張ってみましたが、なるほど。手で担いで運ぶよりずっと楽です。細く切った葉っぱを木にくるっとひっかけ、それを持って引っ張ります。
こういうのが可能なのは、木を切った場所がウマより川の上流だったから。上流から下流へと川の流れに乗せて運べるのです。これが反対だったら大変でしょう。この辺りもちゃんと計算しているのかも。
ちなみに家族そろって作業するのを見たのは、滞在中これが最後。ジャングルでは男女の役割分担が明確で、薪や竹を取りに行くのは女性の仕事、狩りは男性と決まっているのです。タバコを吸うのは男女とも同じでしたが。
12時。バナナとタロとナシゴレン。
戻ると、バナナとタロを蒸したものをいただきました。これが昼食?と思ったら、またしても30分ほどしてナシゴレン(インドネシア式チャーハン)が。
私たちの感覚では、朝食の昼食、夕食の時間は決まっていますが、ここではそういうものがあるような、ないような‥。サゴが出来あがたたらサゴを食べ、バナナがゆであがればバナナを食べる。それでも一応、朝食、昼食、夕食のようなものはあるみたいで、朝は7時半くらい、昼は正午すぎ、夕食は7~8時頃に、みんなでそろっての食事となります。
ここに来るまで、ジャングル奥地の民は、最低限の食べ物だけで質素に暮らしていると勝手にイメージしていました。たしかに食事内容はシンプルですが、食べる量はけっこう多いし、食べる回数も多い。いつも体を動かしているせいもあるのでしょう。ジャングルに分け入り、竹や木を切り倒し、ウマまでかついでくるのは、かなりの重労働です。
私はただ彼らについていき、パチパチ写真を撮るだけなので、たいした運動量ではない。なのに食意地が張っているので出されたらつい食べてしまう。おかげでここでは常に満腹状態。「空腹感ってどんな感じだったっけ?」となつかしさすら感じるほどでした。
犬が数匹ウロウロ
誰かが何かを食べ始めると、すかさずそこへ犬たちが寄ってきます。ウマに来て驚いたことの1つが、ウマの中を犬が何匹もうろうろしていることでした。これまでの人生で2回野良犬にかまれ、狂犬病の注射を打ったことのある私は、犬が怖くてしかたがない。こんなジャングルの奥地で、犬に噛まれたらどうしよう‥?島にはたいした病院はありません。船に乗ってパダンに行かなければならない。それも船が出るのは週3回だけ。(犬よ、どうせ噛むなら船がある日にしておくれ‥)、などと内心祈ったものです。
しかしよく躾けられているのか、犬たちはとてもおとなしく、滞在中一度も吠えたことがありませんでした。ふだんは床の上でだらしなく寝転んでいて、飼い主がどこかに行く気配を察知すると、素早くついてきます。かといって出歩くのが好きなわけでもなく、自分だけで出かけることはない。あくまで飼い主と一緒が好きなよう。
いつもダラけている犬が本領を発揮するのは狩の時。鼻がきくので、動物の匂いがわかります。野生のシカやサル、ブタ‥。犬を飼っているのも、狩のため。しかし間違ってアマン・サリの手をかんだことがありそうで、「すごく大きな傷口だったけど、薬草ですぐに手当したから、3日くらいでよくなったよ」とアマン・サリ。
サゴ*メンタワイ族の主食
ウマでは朝と夕の2回、主食であるサゴを料理します。サゴは、サゴヤシの茎からつくる小麦粉。サゴを料理するのは、主に長男・次男の奥さんバイ・サリとバイ・マジャの役目です。
サゴの料理法には2つあり、竹筒に入れて蒸し焼きにしたものと、サゴの葉で包み、火であぶるもの。(詳しくは→シベルート島メンタワイ族の食事*ジャングルの恵み)
前者はもっちりしていて、ゴムのような食感。後者は外がカリカリとしていて、やや硬め。どちらも正直、あまり美味しいものではありません。
大好物*サゴカブトムシ幼虫
バイ・マジャのサゴ作りを眺めていると、アマン・サリの長女サリが、「あるもの」を持ってやってきました。「タムラ」と呼ぶサゴカブトムシの幼虫です。メンタワイ族の人たちの大好物。
バイ・マジャとサリ、サリの妹も加わり、できたてのサゴとともに、タムラをむしゃむしゃ‥。この時は気持ち悪く感じて、ただ見ているだけでしたが、その後、勇気を出して食べてみたら、とても美味しかった!
この後、3人とも、しっかりご飯と牛肉の夕食?を食べたのは、言うまでもありません。