ザンスカールの結婚式 <インド・ラダック地方>
インド・ラダック地方の秘境ザンスカールの結婚式に参加しました。そこで驚きの事実に遭遇したのですが、まずは式の流れを追ってご紹介します。
自宅から食器持参
式が行われたのはカルシャ村。100家族ほどが暮らす、ザンスカールの中ではわりと大きな村です。
花嫁の実家の庭にテントが張られ、その中に敷かれたマットレスの上にに土足のまま腰をおろします。
ザンスカールの結婚式では自分の食器を持参します。お茶をそそぐカップと料理用のお皿です。
結婚式は村全体のイベント。会場には花嫁花婿の家族親戚だけでありません。
会場ではひっきりなしにナムキンチャイ(塩入のバター茶)や大麦から作られた地酒がふるまわれます。それを飲んだりして式が始まるのを待ちます。
テントの裏は花嫁の実家です。一つの部屋では、男性たちが踊っていました。
花嫁登場
いよいよ花嫁が式場に登場です。付き添っているのは花婿の村から来た男性たち。この日、花婿は自分の村にいて、式には参加しません。
この日式が終わった後(夕方)、花嫁は男性たち数人に付き添われ、花婿の村へ行きます。
ベジモモ、ライス、ダル‥
食事がふるまわれました。配るのはボランティアの男性たちです。
ベジモモ(野菜のモモ)とマトンのモモ、焼きそば。焼きそばも手で食べます。
「モモ」は、チベット風餃子。皮がもちもちして、とてもおいしい。こちらの人は皮も手作りします。
これでお腹いっぱいになったと思ったら、今度はライスにダル、サブジ(野菜カレー)、たまご‥。
そしてローカルパンのタギ。チャパティを厚くしたようなパンで、もっちり香ばしいパン。が、
ああ、もう食べきれない‥。自分の袋に入れて持ち帰る人もいます。
あんずのシロップ漬け。タギにのせて食べます。
会場にはイヌが何匹もいて、おこぼれにあずかっていました。
この間、花嫁はずっと座ってうつむいているだけです。隣にいるのは彼女のおばさん(父親の姉妹)。
なぜ花嫁の母ではなく、おばさんなのか?と聞けば、それがこの地方の習慣だとのことです。
花嫁の父のおくりもの贈呈
その後は花嫁の父から贈り物の贈呈。冷蔵庫、洗濯機など、衣類、食器など生活必需品です。これらが会場に運び込まれ、みんなの前で披露される。1つ1つ。
品物は「リスト化」されていて、男性がそのノートのリストを見ながら1つ1つ品目を読み上げ、他の人が品物の中からそれを取り出し、「ほら、これですよー」という感じで、皆の前に見せるのです。
見ている方も興味津々。すごく楽しそう。それにしてもザンスカールもなかなかマテリアル主義なのですね。もっとシンプルな暮らしをしていると、勝手に想像していました。
花嫁は花婿の村へ
そして花嫁は式場を後にして、花婿の村へ。写真ではわかりませんが、花嫁はワンワンと鳴き声をあげながら皆に見送られて、車に乗り込みます。
両親のもとを離れ、住み慣れた場所と人と離れ、新たな環境でくらすー
その寂しさ・心細さは私にも想像できます。ところがー
飾り立てられた車。
お香のようなもので、花嫁の門出を祝う花婿の村の男性たち。
花嫁を乗せた車が出発しようとすると、花嫁の友人たちがそれをストップ。「花嫁が欲しかったら、お金を渡しなさい」と。
こういう習慣は、バングラデシュ、パキスタン(フンザ)などにもあります。
村はずれに行ったところで、一行は一度車をおります。そこに花嫁の村人たちが待ち構えていて、新郎の村の男性たちに食事をふるまいます。
結婚式は村全体のイベント。それを実感します。
夫婦には子供が!
私が驚くべき事実を知ったのは、式が終わりの方になってからです。なんとカップルは結婚して10年。すでに子供が2人いるというのです。
そしてこの結婚式は「2回目」の結婚式だとのこと。
2回結婚式を挙げるのは、ザンスカールでは普通のことだそうです。そして1回目の式を「プレ・ウェディング」、2回目を「ファイナル・ウェディング」と呼ぶとのこと。
この日の式は「ファイナル」の方だったのです。
2回結婚式を行う理由
1回目の式はたいてい家族・親戚だけのこぢんまりしたもので、2回目はしばしば1回目より盛大なものだといいます。
この夫婦の場合は家を新築したことが、2回目の式の口実でした。
しかし家の新築は、必ずしも2回目の結婚式のためには必須要件ではなく、多くはお金ができたときに2回目を行うとのこと。
1回目と2回目の式は、数年、時には10年くらい間が空くこともある。
ちなみに2回式を行うのはラダック全体というわけではなく、ザンスカールに限られているそう。
なぜ2回式を行うのか?
ザンスカールの多くの人が「習慣だから」と答える中、詳しく教えてくれる人がいました。
理由は次の3つだそう。
①ザンスカールでは見合い・恋愛結婚両方あるが、中には両親の反対を押し切って結婚する「駆け落ち婚」もある。この場合カルギルやレーなどで生活を始め、裁判所で結婚を認めてもらう。その後、ちゃんとした結婚式を行う。これが2回目の式。
②ザンスカールは村民のつながりがとても強いので、再び集まれる機会を設けるために2回式を行う。
③1回目の時はお金がないので、お金ができた頃に2回目のパーティを行う。
そして②がメインの理由とのこと。
それは本当なのか?もし②が理由なら、それは結婚式でなくてもいいはず。
たとえばトゥルトゥク村の家の新築パーティのように、別の理由をつけてパーティを行うこともできるのでは??
本当の理由は?
③がメインの理由ではないか。私は勝手にそう考えます。
お金ができた時に盛大な式を行う。そうでない若い頃は、とりあえず小さく式をすませる。
そしてもしこれがメインの理由だとしたら、とても理にかなったものではないかと思うのです。
若い時は誰でもお金がない。だからこじんまりした身内だけの式をやり、両親と一緒に住んで子どもをつくる。生活費も時には親に援助してもらう。
これなら「お金がないから結婚できない」ということはありません。そして生活の心配をせず子どもを生み、育てることができる。そしてお金に余裕ができた時に、盛大な結婚式を行う。
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ザンスカールやラダックの人と話していて感じるのは、子どもを非常に大事なものと考えていることです。
知り合うとすぐに「子どもはいるのか?」「何人いるのか?」という質問になる。それだけ子供の有無に興味があるのでしょう。子どもがいないというと、「結婚していないのか?」となる。
「子どもがいない=結婚していない」であって、「結婚していて子供がいない」ということは彼らには思いもよらないのです。
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子どもをつくるなら、なるべく若い時に結婚した方がいい。
そして子どもを無事産み、お金ができた頃に盛大な本格的なパーティを行う。
これなら「結婚して子どもを作りたい」&「でもお金がない」のジレンマを解決することができる。
これは私の勝手な解釈です。しかし彼らの2回結婚式という風習は、非常に理にかなった、そして意義あるものではないかと思うのです。