2023-08-19

ザンスカールの結婚式 <インド・ラダック地方>

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

インド・ラダック地方の秘境ザンスカールの結婚式に参加しました。そこで驚きの事実に遭遇したのですが、まずは式の流れを追ってご紹介します。

自宅から食器持参

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

式が行われたのはカルシャ村。100家族ほどが暮らす、ザンスカールの中ではわりと大きな村です。

花嫁の実家の庭にテントが張られ、その中に敷かれたマットレスの上にに土足のまま腰をおろします。

ザンスカールの結婚式では自分の食器を持参します。お茶をそそぐカップと料理用のお皿です。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

結婚式は村全体のイベント。会場には花嫁花婿の家族親戚だけでありません。

会場ではひっきりなしにナムキンチャイ(塩入のバター茶)や大麦から作られた地酒がふるまわれます。それを飲んだりして式が始まるのを待ちます。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

テントの裏は花嫁の実家です。一つの部屋では、男性たちが踊っていました。

花嫁登場

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

いよいよ花嫁が式場に登場です。付き添っているのは花婿の村から来た男性たち。この日、花婿は自分の村にいて、式には参加しません。

この日式が終わった後(夕方)、花嫁は男性たち数人に付き添われ、花婿の村へ行きます。

ベジモモ、ライス、ダル‥

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

食事がふるまわれました。配るのはボランティアの男性たちです。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

ベジモモ(野菜のモモ)とマトンのモモ、焼きそば。焼きそばも手で食べます。

「モモ」は、チベット風餃子。皮がもちもちして、とてもおいしい。こちらの人は皮も手作りします。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

これでお腹いっぱいになったと思ったら、今度はライスにダル、サブジ(野菜カレー)、たまご‥。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

そしてローカルパンのタギ。チャパティを厚くしたようなパンで、もっちり香ばしいパン。が、

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

ああ、もう食べきれない‥。自分の袋に入れて持ち帰る人もいます。

あんずのシロップ漬け。タギにのせて食べます。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

ザンスカールの結婚式 杏のシロップ漬け

会場にはイヌが何匹もいて、おこぼれにあずかっていました。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

この間、花嫁はずっと座ってうつむいているだけです。隣にいるのは彼女のおばさん(父親の姉妹)。

なぜ花嫁の母ではなく、おばさんなのか?と聞けば、それがこの地方の習慣だとのことです。

花嫁の父のおくりもの贈呈

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

その後は花嫁の父から贈り物の贈呈。冷蔵庫、洗濯機など、衣類、食器など生活必需品です。これらが会場に運び込まれ、みんなの前で披露される。1つ1つ。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

品物は「リスト化」されていて、男性がそのノートのリストを見ながら1つ1つ品目を読み上げ、他の人が品物の中からそれを取り出し、「ほら、これですよー」という感じで、皆の前に見せるのです。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

見ている方も興味津々。すごく楽しそう。それにしてもザンスカールもなかなかマテリアル主義なのですね。もっとシンプルな暮らしをしていると、勝手に想像していました。

花嫁は花婿の村へ

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

そして花嫁は式場を後にして、花婿の村へ。写真ではわかりませんが、花嫁はワンワンと鳴き声をあげながら皆に見送られて、車に乗り込みます。

両親のもとを離れ、住み慣れた場所と人と離れ、新たな環境でくらすー

その寂しさ・心細さは私にも想像できます。ところがー

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

飾り立てられた車。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

お香のようなもので、花嫁の門出を祝う花婿の村の男性たち。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

花嫁を乗せた車が出発しようとすると、花嫁の友人たちがそれをストップ。「花嫁が欲しかったら、お金を渡しなさい」と。

こういう習慣は、バングラデシュ、パキスタン(フンザ)などにもあります。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

村はずれに行ったところで、一行は一度車をおります。そこに花嫁の村人たちが待ち構えていて、新郎の村の男性たちに食事をふるまいます。

結婚式は村全体のイベント。それを実感します。

夫婦には子供が!

私が驚くべき事実を知ったのは、式が終わりの方になってからです。なんとカップルは結婚して10年。すでに子供が2人いるというのです。

そしてこの結婚式は「2回目」の結婚式だとのこと。

2回結婚式を挙げるのは、ザンスカールでは普通のことだそうです。そして1回目の式を「プレ・ウェディング」、2回目を「ファイナル・ウェディング」と呼ぶとのこと。

この日の式は「ファイナル」の方だったのです。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

2回結婚式を行う理由

1回目の式はたいてい家族・親戚だけのこぢんまりしたもので、2回目はしばしば1回目より盛大なものだといいます。

この夫婦の場合は家を新築したことが、2回目の式の口実でした。

しかし家の新築は、必ずしも2回目の結婚式のためには必須要件ではなく、多くはお金ができたときに2回目を行うとのこと。

1回目と2回目の式は、数年、時には10年くらい間が空くこともある。

ちなみに2回式を行うのはラダック全体というわけではなく、ザンスカールに限られているそう。

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

 

なぜ2回式を行うのか?

ザンスカールの多くの人が「習慣だから」と答える中、詳しく教えてくれる人がいました。

理由は次の3つだそう。

①ザンスカールでは見合い・恋愛結婚両方あるが、中には両親の反対を押し切って結婚する「駆け落ち婚」もある。この場合カルギルやレーなどで生活を始め、裁判所で結婚を認めてもらう。その後、ちゃんとした結婚式を行う。これが2回目の式。

②ザンスカールは村民のつながりがとても強いので、再び集まれる機会を設けるために2回式を行う。

③1回目の時はお金がないので、お金ができた頃に2回目のパーティを行う。

そして②がメインの理由とのこと。

それは本当なのか?もし②が理由なら、それは結婚式でなくてもいいはず。

たとえばトゥルトゥク村の家の新築パーティのように、別の理由をつけてパーティを行うこともできるのでは??

本当の理由は?

ザンスカールの結婚式 Zanskar Wedding

③がメインの理由ではないか。私は勝手にそう考えます。

お金ができた時に盛大な式を行う。そうでない若い頃は、とりあえず小さく式をすませる。

そしてもしこれがメインの理由だとしたら、とても理にかなったものではないかと思うのです。

若い時は誰でもお金がない。だからこじんまりした身内だけの式をやり、両親と一緒に住んで子どもをつくる。生活費も時には親に援助してもらう。

これなら「お金がないから結婚できない」ということはありません。そして生活の心配をせず子どもを生み、育てることができる。そしてお金に余裕ができた時に、盛大な結婚式を行う。

ザンスカールやラダックの人と話していて感じるのは、子どもを非常に大事なものと考えていることです。

知り合うとすぐに「子どもはいるのか?」「何人いるのか?」という質問になる。それだけ子供の有無に興味があるのでしょう。子どもがいないというと、「結婚していないのか?」となる。

「子どもがいない=結婚していない」であって、「結婚していて子供がいない」ということは彼らには思いもよらないのです。

子どもをつくるなら、なるべく若い時に結婚した方がいい。

そして子どもを無事産み、お金ができた頃に盛大な本格的なパーティを行う。

これなら「結婚して子どもを作りたい」&「でもお金がない」のジレンマを解決することができる

これは私の勝手な解釈です。しかし彼らの2回結婚式という風習は、非常に理にかなった、そして意義あるものではないかと思うのです。

 

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